「ふぅ、極楽極楽〜、人間っていいなぁ〜」
「お前、人間じゃないだろう」
風呂場に響く女の声に俺は答える。
むぅ、と彼女は不満げな声を上げるが否定できないだろう。
湯を張った浴槽につかっている俺に対し、彼女は湯面にお椀のような物を浮かべ、それに湯を張ってつかっている。
つまり彼女は俺より遥かに小さい、人ならざるもの……
ピクシー。
悪戯好きな妖精型の、小型の魔物娘だ。
しかし、同じ妖精型のフェアリーとは似て全く異なる種族である。
例えば額から生えている短い二本の角、例えば人間や自身の身体の大きさを変えることができる特殊能力……
ピクシーとフェアリーは全く別の種族なのだ。
もちろん、同じ属のインプとも別の種族である。
そして、俺こと良平はこのピクシーの流美と恋人同士だ。
今は俺のアパートで同棲している。
狭いアパートでもピクシーだからスペースを取らない……ってのは内緒だ。
今日は冬至……一年でもっとも日が出ている時間が短い日である。
裏を返せば、もっとも夜が長い日……魔物娘にとって最高の日なのかもしれない。
さて、ジパングでは冬至の日にはゆず湯に入るという風習がある。
その由来は運を呼び込むための語呂合わせのみならず、血行を促進して体を温めて風邪を予防するとか、ビタミンCの効果を得るだとか、諸説ある。
しかし、細かいことはただの学生である俺には分からない。
ともかく俺と流美は今、ゆず湯につかっている。
彼女が入っているお椀の風呂桶の近くには、柚子がぷかぷかと浮かんでいた。
ちなみに彼女が入っているお椀は妖精種のための風呂桶であり、底に穴が空いていて風呂の湯が中に入り込むようにし、そしてお椀の周囲に浮き袋がついていて沈まないような物になっている。
「ま、人間でも魔物娘でも獣でも、お風呂が素敵なのは変わらないわね」
「猫は嫌がる気もするけど……お風呂が素晴らしいのは同感だ」
うーんと身体を伸ばしながら俺は彼女の言葉に答える。
確かに、お風呂という物は素晴らしい。
全身が温かい湯に包まれ、じわじわと温められ、身体の筋肉の繊維一筋一筋が解されていくような気がする。
また、今日はゆず湯と言うことで息を吸うと柚子の爽やかな香りが鼻腔をくすぐった。
実に快適だ。
ずるずると俺は腰を前にずらし、身体をもう少し深く湯に沈めた。
首まで湯につかり、肩のコリなどもほぐれていく気がする。
その温かさに俺は少しボーッとしてきた。
温かい物に包まれているというのはいいものだ。
母親の温かな子宮の中にいた頃を想起させるのかなんなのか……落ち着いて安らいだ気持ちになれる。
羊水の中に浮き、何一つ煩うことなく、絶対的に幸福だったあのころ……温泉の温かさはそれを思い起させた。
いつまでもこうしていたい、そのまま眠ってしまいたい……そんな願望が頭を支配する……
「ちょっと、良平!」
「おおっと、いけない!」
流美に声をかけられ、俺は慌てて姿勢を立て直した。
いけないとは思ったが、いくらかは寝てしまっていたかもしれない。
水面に口までつかりそうになっていた。
ざばっ
「うわっ!? ちょっとぉ! 危ないってばぁ!」
急に流美が悲鳴を上げ、大慌てでお椀から飛び出した。
俺が動いて湯面が波立ったのだが、それが彼女にとって大問題だったのだ。
風呂の湯の波など人間には全く問題のないことだが、今、湯面に浮かべたお椀にいるピクシーの流美にとってそれはもはや津波にも匹敵する大災害だ。
「もう、ちゃんとあたしのことを気遣ってよね」
ぷんぷんと怒って見せながら流美はお椀から出てひらひらと風呂場を舞う。
慌てて飛び出したため、タオルなどを持っておらず、生まれたままの姿だ。
思わず俺の視線は彼女に釘付けになった。
つるつるで湯を玉状にして弾いているつややかな肌は湯で温まって桜色に染まっている。
さらに、濡れたつややかな髪、かすかに膨らんだ胸、柔らかそうでいて平らな腹、スラリとした足、女の秘密の陰り……それらが全て俺の目を捉えて離さなかった。
「きゃっ!? 何見ているのよぉ!」
「ご、ごめん。あまりに流美が綺麗だったから……」
「……もう、そんな言葉にごまかされないわよ?」
胸と股間を手で覆った流美は顔をさらに赤くしてそっぽを向いた。
しかし、綺麗と褒められて彼女もまんざらではなさそうだ。
気を良くした彼女がサービスを提案してくる。
「お背中お流ししましょうか、お兄さん?」
「ああ、頼むよ」
流美がお椀から出たのを見計らって俺は改めて湯から上がる。
そして洗い場の腰掛けに座った。
すぐに流美が背中に近づいてきて、小さなボディータオルでゴシゴシと俺の背中をこすり始める。
「うーん、いつ見ても大きくてたくましい背中ねぇ……」
「さぁ、自分ではそうは思わないんだけどなぁ……」
シャンプーを手にとり、わ
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