「グレン〜、シチューができたよー」
「ああ、ありがとうセラス」
とある雪山にぽつんと立っている山小屋。
その山小屋の中に美味しそうなクリームシチューの匂いが漂っていた。
女がそのシチューを二つの皿に盛ろうとする。
だが彼女の姿は、シルエットは人ではあるのだが、人ではないところがいくつかみられた。
彼女の手足は大きく、毛むくじゃらで白く、獣の物だった。
実際に彼女は人ではない。
イエティ。
雪山に生息する獣人の魔物娘だ。
彼女達はどんなに極寒の環境でも活動できる。
性格は陽気で優しく、雪山で遭難している人を見かけたらすぐに助け、彼らを抱きしめて自らの体温で温めようとするほどだ。
そう、この男を助けたように。
つい昨日の話だ。
山小屋の中でのんびりしていたイエティのセラスがふと胸騒ぎを覚えて猛吹雪の外に出てみると、遠くでふらついているぽつんとした影を認めた。
こんな猛吹雪の中あまり出歩く獣もいないし、出歩く獣はふらつくほどやわではない。
そして何より吹雪に混じって彼女の鼻をくすぐるものがあった。
男の臭い……魔物である彼女はそれを敏感に感じ取っていた。
すぐに彼女は影に向かって走り出した。
果たしてその影の正体は人間、それも男だった。
雪山を歩くと言うのに彼の服装はおよそ冬の登山には向かない格好だった。
毛皮で出来たマントは羽織っていたが、その下は軽鎧を身にまとっていた。
「あ、こんなところに人が……助かった」
安心して気が緩んだのか、男はセラスを見て気を失ってしまった。
しかしこの極寒の中、気絶してしまうのはまずい。
下手をしたら死んでしまう。
一刻も争う事態だ。
セラスは彼を抱きかかえて温めながら、大急ぎで山小屋に戻った。
彼の意識が戻った後も彼女はずっと彼を抱きしめていたのだが……
「ああ、美味しいよ。こんなに美味しくて温かいもの、食べたことがない」
シチューを口にしたグレンがうっとりとして言う。
手放しで褒められてセラスは頬を染める。
だが同時に疑問も心に浮かび上がった。
「グレンは温かい物、食べたことないの?」
「……いや、そう言うわけじゃない。温かい物は食べていたし、美味しい物も食べていた。実際、パンはたいてい白パンだった」
シチューと一緒に出された堅い黒パンを苦労して引きちぎりながら、グレンはつぶやく。
彼の答えに対して、セラスは分かりかねると言った感じで首をかしげた。
しかし彼の言葉から、前から予想していたことに確信を持った。
一般の庶民はあまり口にすることのない贅沢な白パンを良く食べていたと言うことは、彼はかなり上流階級の人物ということになる。
山奥に住んでいるセラスもそれは知っていた。
そんな男がフラフラとこの雪山を、鎧なんかを着て歩いていたと言うことは……
「セラス?」
突然、グレンに呼びかけられてセラスはハッとした。
考え込みすぎていたようだ。
ごまかすようにセラスは笑ってシチューを口に運ぶ。
グレンも、彼女が何を考えていたかおおよそ予想はついたようだ。
何も言わず、黙ってシチューを食べ続けていた。
食事が終わり、片付けや薪の用意などしたら特にやることはない。
早々にセラスとグレンはベッドに就いていた。
もともとセラスが一人で暮らしていたため、ベッドは一つしかない。
そのベッドに二人は入っていた。
「なぁ、セラス」
「なぁに?」
ぽつんと声を出したグレンにセラスは少々間延びした甘い声で応える。
言いにくそうに少し黙っていたグレンだったが、やがて口を開いた。
「その……やっぱり抱きつくのか、俺に……」
「だってそうじゃないと二人でベッドにはいれないし、それに……こうした方が温かいでしょう?」
「それはそうなんだけど……」
ベッドの中でセラスはグレンに抱きついていた。
セラスの言葉通り、そうしないと二人が一緒にベッドに入れない。
そして、確かにセラスに抱きつかれた方が、グレンは温かかった。
昨日もそうして凍えていた身体を温めてもらっていた。
「でも……」
「ん〜? でもなぁに?」
顔を赤くするグレンにニヤニヤとセラスは笑って言う。
セラスのニヤニヤ笑いにグレンはますます顔を赤くし、そっぽを向いた。
でも、の後に本当は、セラスに抱きつかれるのを少し嫌がる理由が続くはずだ。
だがグレンはそれを言わない。
そしてセラスは、言われなくてもその理由が分かっていた。
「もしかして、また、おちんちんが勃っちゃったかなぁ?」
「くっ……!」
グレンの顔がまるで火でも出ているかのように真っ赤になる。
そのことが、セラスの2つの指摘を肯定していた。
一つは今勃起していること、もう一つは昨日もそれをしてしまったこと……
昨晩、セラスに抱きしめてもらって身体を温められていた。
抱きしめられると彼女から体温が伝わってくる
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4]
[7]
TOP[0]
投票 [*]
感想