ゴゴゴゴゴ
とある荒野の丘陵地帯にて。
最初に異変に気付いたのはキャラバンの隊長の商人だった。
彼はかすかな地鳴りを耳にしていた。
「おい、これは一体……」
自分が感じた異変を副隊長に告げると、彼は顔を青ざめさせた。
すぐに望遠鏡を取り出して隊長に報告する。
「まずい! ワームだ! およそ1マイルちょっとのところからこっちに向かって突進してきている!」
報告を聞いて隊長も愕然とする。
ワーム……ドラゴンの一種だ。
ドラゴンの下位種でありながらその力はドラゴンを上回ることもある。
男の気配を察した彼女たちに岩も森も堅固な要塞の防御壁も無力だ。
「すぐに傭兵たちに戦闘準備を……」
「それは無理だ! 準備している間に追いつかれるし、なによりワームと戦うなど自滅行為だ!」
隊長の意見を副隊長は即座に否定する。
仮にもドラゴンの一種であり、ただでさえ岩をも砕く力の持ち主のワームだ。
また力だけでなく防御力も高く、その堅い鱗はいかなる剣も跳ね返すと言われている。
確かに金で雇った護衛部隊で追い返すのは限りなく不可能だ。
「じゃあどうすれば……」
「そこでだな……」
絶望したような顔をする隊長に副隊長は何事か囁く。
見る見るうちに隊長の顔が引き締まった物になった。
だがあまり気持ちのいい表情とは言えなかった。
「なるほどな……よし、早速その手で行こう。おい、チビ! チビ!」
隊長が声を上げる。
4回ほど呼んだところで、小柄な少年が隊長の前にまろび出てきた。
歳は14ほど……結構細身な体つきだ。
手足には筋肉がついているが、あまり戦い慣れしていない雰囲気である。
彼は傭兵でも商人見習いでもない。
一年ほど前、隊長によって買われた奴隷だ。
つまり、隊長にとっては使い捨ての効く人間……
「呼ばれたらさっさと来い、クソガキ。まぁいい……今、この商隊にワームが近づいているんだ」
唐突に隊長は少年を見下ろしながら告げる。
急に言われたことが分からずおどおどしている少年にいつの間にか背後に忍び寄っていた隊長の護衛の傭兵がその腕をひねり上げた。
「という訳でだな……お前にはそのワームのエサになってもらう……!」
「えっ!? そ、そんな……い、嫌だ……! む、むぐ……!」
「うるせぇガキだ。奴隷のくせに……」
嫌がってもがこうとする少年の口に別の傭兵が猿轡を噛ませる。
腕をひねりあげていた傭兵もその腕を縛り、そして脚も縛り上げた。
「よし、そいつをそこらへんに転がしておけ。今のうちに全速前進! ほかの魔物に目をつけられないうちにこの地帯を抜けるぞ!」
こうして奴隷の少年は丘陵の荒野にたったひとり、自由を奪われた状態で転がされ、隊商は煙を上げて去っていった。
ほどなくして何者かが少年の元にやってきた。
女性の上半身にゴツゴツとした鱗を持つ蛇のような下半身と手、頭からは角が数本伸びている……
全力でこちらに向かって来たためか長い暗緑色の髪は乱れている。
その下から美しい女性の顔が覗いていた。
だがその目はギラギラと獰猛な光を放っており、ドラゴンらしい威圧感を放っている。
『ああ、僕……これに食べられるんだ……』
現れた人ならざる者を見て、魔物が人を喰らうと教え込まれている少年の頭を絶望に近い物が支配する。
だがそれでも男の性なのか、彼は目の前の魔物の整った美しい顔立ちと、そしてほとんどむき出しとなっている乳房から目が離せなかった。
一方、目を爛々と光らせていたワームだったが、その光が急に収まっていた。
そして首を傾げる。
「キミ……こんなところでどうして一人、縛られた状態で転がっているの?」
「んんー! んんー!」
少年は声をあげようとするが、猿轡を噛まされているため、言葉にならない。
この状況に戸惑っていたワームだったが、一つだけ確かなことをつかみ、納得した。
「とにかく、男が手に入った! 男っ、男!」
一人そう叫びながらワームはその大きなドラゴンの手で少年を抱え上げ、そして来たときと同じように猛然と走ってその場を去り、彼女の巣に向かった。
「ん〜ふふふ〜♪」
巣について寝床に少年を横たえたワームは早速、鼻歌まじりに少年を剥いていく。
彼を縛めていた縄は服ごと千切った。
「ああ、口もきけるようにしないとね……うーんと……」
大きくて爪が生えている手だと細かい作業がしにくかったが、なんとかワームは少年の猿轡を外した。
「あう、あう……」
話せるようになったと言うのに少年の口からは意味をなさない言葉が漏れている。
「ん? 何を言っているの?」
ワームが鱗と皮膜で成っているドラゴンの耳を彼に向ける。
よく聞くと彼は、食べないで、とうわごとのようにつぶやいていた。
そしてよほど怖いのだろう。
彼は逃げることも忘れたように床にへたりこんでいた。
もっとも逃
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