桃太郎はスクスクと成長していきました。
はじめは奇妙な術で若返った老夫婦から生まれた奇妙な人間だと気味悪がられていましたが、今では桃太郎はすっかり人気者です。
なんといっても桃太郎は利口です。
一を聞いて十を知り、十を聞いて百を知る。
ち●こを聞けばま●こを知り、ち●こもま●こも聞けばまぐわいを知る・・・
「何てことを教えているんだ〜!」
「わ〜い、威武(イブ)先生が怒ったぞ〜、逃げろ〜!」
この威武先生とは、大陸からやってきたトカゲ型の魔物、西洋名・リザードマンの女性で、桃太郎が住む村の剣術の先生をやっております。
桃太郎はこの威武先生よりも剣が強いです。
いえ、村一番強いかもしれません。
威武先生を倒し、村で一番強いとされていた若村長にも引けをとらないのですから。
このように賢くて強い桃太郎は村でみんなと仲良く、一生懸命に働いて暮らしていました。
ある日のことでした。
大陸からやってきた旅の教団の僧侶が桃太郎たちの村にやってきました。
大陸の教団とは反魔物派の人間たちで、ジパングに住む魔物やその魔物たちと仲良くするジパングの民の習慣や文化を強く否定します。
かと言って無下に追い返すわけにも行かないので、威武先生をはじめ魔物たちは森に隠れ、人間だけでその僧侶を村に泊めました。
僧侶は泊めてくれたことに感謝し、旅の話を村人に聞かせました。
その中に奇妙な話がありました。
ある漁村でアカオニたちが暴れており、建物を壊したり男や人をさらったりしていると言うのです。
本当なんだろうか・・・
村人たちは不思議に思いながらその話を聞いていました。
「どうにも信じられない・・・アカオニたちはいつも酔っ払っているし、男をさらって夫にすることはあるが、そんな酷く大暴れするようなことはしないはずだ」
翌日、教団の僧侶たちが村を出た後、村の寄り合いで威武先生が腕組みをしながら言いました。
「・・・でも大陸の教団は魔物に関しては過激な意見を持ったり都合のいい解釈をしたりするとは言え、酷い嘘をついたりはしない人間。一部は事実なのだろう・・・」
ある村人が言います。
「でも、その事実は教団の目による、ある一点だけのものだ。与平がいみじくも言ったとおり、教団は都合のいい解釈をすることもある。『事実』はともかく『真実』はどのようなのだろうか・・・」
若村長が反駁します。
そのときでした。
「若長! 私が旅に出てその真実を見てまいります!」
と進言するものがありました。
桃太郎でした。
「何を言うか桃太郎! そのためだけに村を出るとは! 旅とは危険で、魔物や盗賊に襲われることもあるのだぞ!」
威武先生が反対しますが、桃太郎の決心は固いです。
親である春三郎とトメもはじめは反対していましたが
「可愛い子には旅をさせよという。桃太郎も16歳。そして腕も立つ。旅に出て外の世界を知ることは桃太郎自身にも良いし、村の発展にも役立つだろう」
と桃太郎が旅に出ることを許しました。
こうして桃太郎は旅に出ることとなりました。
「では桃太郎や、気をつけて行って来るんじゃぞ」
旅立ちの朝、親の春三郎やトメを初め、村のみんなに見送られて桃太郎は出発することになりました。
「桃太郎や、このきびだんごを持って行きなさい」
トメは桃太郎にきびだんごを渡してくれました。
「わしが渡せるものはこんなものくらい・・・許してくれ」
春三郎は桃太郎に編み笠と白鉢巻、杖をくれました。
「サイクロプスが打った刀ほど立派なものではないが・・・これを持っていけ。ただ、滅多なことで抜くんじゃないぞ」
威武先生は桃太郎に刀をくれました。
「みんな・・・ありがとう! 行ってきます!」
桃太郎は深々と頭を下げ、村を出ました。
こうして桃太郎の旅が始まったのでした。
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