「待て、そこの者!私はリザードマンのナディアだ! 私と勝負しろ!」
旅の女剣士、ソレーヌ・ブラントームは森にさしかかろうとしたとき、何者かに声をかけられた。
振り向いてみると、確かにリザードマンがそこに立っていた。
腰にバスタードソードを佩いており、ただ立っているだけのように見えるが隙はなく、かなりの手練に見える。
だがそれでいながらレオタードのような服に包まれている身体は女性らしく、悩ましい曲線を胸元で描いており、またちらりと覗く太腿が眩しい。
「ずいぶん急な話ね。私はこのとおり女よ? ただ単にこの森を通り抜けたいだけなのだけれども?」
自分が女であることをアピールするかのように、身にまとっている黒のショートマントの前を開け、ソレーヌは自分の胸を揺らしてみせた。
彼女もまた、目の前のリザードマンに劣らぬ魅力的な身体付きをしている。
シャツは身体にぴったりとフィットしており、彼女の胸の大きさを強調していた。
丈も非常に短く、平らでくびれている健康的な色気を漂わせている腹部が露わになっている。
履いているパンツも丈がとても短く、そこから滑らかな脚が覗いていた。
シャツもパンツもすべて黒色で、それが彼女の肌の白さをさらに際立たせている。
「確かにお前は女だ。だがリザードマンは自身を磨くために戦士と腕試しをする。とぼけても無駄だぞ。お前の技量は一挙一動を見れば分かる!」
「だから貴女と勝負しろと? やれやれ、私の都合は考えてはくれないわけね……」
腰の剣を抜いたナディアにため息をつきながら、ソレーヌは右手にレイピアを、左手にダガーを構えた。
レイピアにしては少々幅広で、斬撃にも使える物だ。
ソレーヌも構えたのを見てナディアは満足げに微笑む。
「それでいい……では、行くぞ!」
ナディアがバスタードソードを構えて突進する。
戦いの火蓋が落とされた。
「でやあああ!」
鋭い掛け声と共にナディアのバスタードソードが、ソレーヌの喉元を狙って突き出される。
体を横に開きながらソレーヌは何とかそれを躱した。
だがそれだけでは終わらない。
突き出されたバスターソードがさらに袈裟懸けにソレーヌを狙ってなぎ払われた。
後ろに跳び下がってソレーヌはそれも躱す。
「まだまだぁ!」
下段からナディアの剣が切り上げられる。
「くっ……」
普通に下がるだけでは追撃され続けると判断したのだろう。
ソレーヌは蜻蛉返りを打ちながら後方に大きく下がり、ナディアとの間合いを取った。
「ふぅ、本気も本気のようね。怪我したらどうするの?」
「安心しろ、この剣は魔界銀製だから死ぬことはもちろん、怪我もすることはない。まぁ、魔物化はするだろうがな」
ニヤリとナディアが笑う。
魔界銀とはその名のとおり、魔界で産出される白銀の金属だ。
これによって傷つけられた人間女性は血の代わりに身に持っている精が溢れる。
そして入れ替わりに魔物の魔力を注がれて発情し、やがてはその魔力によって魔物と化するのだ。
男性が相手なら傷つけられたらその手創を負わせられた相手のことが魅力的に見えて仕方がないはずだ。
人間を傷つけたり殺したりすることを嫌う魔物娘にとっては一石で二鳥も三鳥も落とせる武器だが、人間にとってはやはり恐ろしくて厄介な武器である。
だが、それに対してソレーヌは涼しげに笑うだけだった。
「余裕を見せていられるのも今のうちだぞ……!」
再びナディアが突進した。
下から上、右から左、次々と流れるように連続攻撃が繰り出される。
「……」
それをソレーヌは、まるで水に浮かぶ一枚の葉のようにふわりとよける。
「はぁっ!」
ナディアが身体を一回転させる。
普通の剣士であれば意味の無い行為。
だが彼女はリザードマンだ。
後ろの腰から生えている強靭な尾が鞭のようにしなってソレーヌの顎を狙って飛んでくる。
リザードマンならではの奇襲だ。
「ふっ……」
だが、ソレーヌはそれもあっさりと躱した。
「なにっ……!」
一瞬驚いたナディアだが、でもすぐに気持ちを立て直す。
立て直せるだけの勝算が彼女の中にはあった。
涼しい顔をしているが、今のソレーヌのよけ方はやや際どかった。
尾先と彼女の顎先との距離はおよそ10センチ……最初は15センチほどの距離を保ってソレーヌは躱していたのだ。
その距離が縮んでいる。
『勝機はある……』
再び流れるような連続の斬撃がソレーヌに乱れ浴びせられる。
回数が重ねられるにつれてナディアの剣のスピードは上がり、ソレーヌと剣先の距離が縮まっていく。
8センチ、7センチ……
ピッ!
黄金色の細い毛がキラキラと宙を舞う。
ソレーヌの髪の毛先をナディアの剣がかすめ、斬り飛ばしていた。
「……っ!」
ここで初めてと言っていいくらい、ソレーヌが攻撃を繰り出した。
ひゅんと音を立ててレイピアが振
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4 5]
[7]
TOP[0]
投票 [*]
感想