「もうこんな国イヤだ! 俺の良さが分からないヤツばかりの国なんて! 俺は外に行って、この俺を愛してくれる女を見つける!」
そう言って男、グナーは反魔物領の故郷を飛び出した。
一人旅というものは危険ではあるが、彼は国で兵士を何年か務めたこともあって腕にはそこそこ自信はある。
教会で勉強をしたので読み書きもできる。
声もなかなか綺麗なテノールで、見た目も悪くない。
しかし、彼には恋人らしい恋人はいなかった。
いや、それどころか友だちらしい友だちもいない。
彼は万能であらゆる能力を持っているのに。
だが軍も教会も女性もどの人も、彼を求めようとはしない。
この状況に我慢できなくなったグナーは故郷の村を捨てて旅に出た。
友だちがいない彼だったため、誰も止めはしなかった。
グナーは親魔物領を目指していた。
魔物は男であれば誰彼構わず交わる……と彼は故郷で聞いていた。
反魔物領での情報なので偏見が入っているが、一部はあっている。
そして……
『男と交わるのが好きなのであれば、この自分を求めてくれる魔物がいるに違いない!』
このグナーの考えもあながち間違ってはいなかった。
ともかく、グナーは親魔物領に向かっていた。
もう少しで親魔物領につくだろうと思われたとき、一人の魔物に出会った。
上半身は美しい女性で、下半身は馬の魔物……
その下半身は艶やかな黒色だ。
そして頭からは二本の角が生えていた。
バイコーンという魔物だ。
手に持っている籠には花が入っている。
おそらくこのあたりを散歩して、趣味で花を摘みに来たのだろう。
「あら、こんにちは」
グナーが通りかかったのをみて、バイコーンが挨拶をしてきた。
とろけるような笑顔と甘い声にグナーは背筋が震えた。
「こ、こ、こんにちは!」
女性と話すことはあったが、こんなに親しげに話されたことがなかったグナーは声が上ずっていた。
加えて、グナーは姦淫などには厳しい、反魔物領出身である。
そのバイコーンは、胸は下から乳首を少し隠している程度の服とも呼べないようなビスチェだったため、このような露出度の高い服を見たことがなかったグナーは驚きと緊張に声が上ずっていた。
「うふふ、そんなに固くなってしまって可愛いですわね」
「は、はい……俺、いや、僕は僕を求めてくれる人を探しにやってきたグナーです!」
普段使わないような一人称を無理やり使ってグナーは名乗った。
そのぎこちなさにバイコーンはクスクスと笑う。
「あら、失礼しました。私はスプモーニ家の三女、グレース=スプモーニと言いますわ。以後お見知りおきを……」
すっとグレースが手を差し伸べる。
グナーはその手をおずおずと握った。
「これも何かのご縁……今宵はどうぞ私の館にお泊りください」
「うぇ!? あ、は、はい。どうも……」
いきなり女性の、それも美女の家に誘われたことの嬉しさやそこまで大胆な彼女の行動への驚きなどがいなまぜになり、グナーは返事をするのが精一杯だった。
彼女の家、スプモーニ家は貴族然りとした大きな館であった。
グレースがエントランスから入ると、彼女と同じ下半身を持った艶やかな女性が出迎えた。
「おかえりなさい、グレース」
「お母様、ただいま戻りました。お父様は?」
出てきたバイコーンにグレースが挨拶をした。
彼女がグレースの母親なのだろう。
母親は答えた。
「父様は今は魔女のメディナと交わっているわ」
「あら、さすがハーレムを束ねているお父様ね、さすがですわ」
「ええ、私の自慢の夫ですから」
グレースの母親は軽く胸を反らして見せる。
そしてその視線をグナーに向けた。
「ところで、この殿方はもしや……?」
「ええ、私の花婿の候補、グナー様です」
グレースの答えを聞いて母親は顔を輝かせた。
「まぁ素敵! 今夜は盛大にお祝い……と言いたいところですが、あいにく夕食の準備がもうすでに整っているわね……」
「仕方ないですわ、お母様。お祝いはまた後日にでも」
「申し訳ないですわね、グレース。それにしても……」
母親はグナーに近寄り、すんすんと匂いを嗅ぐように鼻を鳴らした。
「この方、まだ……?」
「ええ、今はまだ”水”です。ですが、そこからいろいろブレンドして芳醇な”カクテル”にしようと思います」
「まぁ。”水”から仕立て上げるのもまた一興で面白いですわね、ほほほ……」
グレースと彼女の母親の会話にグナーは首をかしげていた。
水とかカクテルとか、もちろんグナーも知っている単語であるが、使っている意味が異なっているように感じる……
だが考えていたのも束の間、グレースがグナーに晩餐の席に付くように言った。
ダイニングのテーブルに豪華な料理が並んでいた。
鳥の丸焼き、さまざまなスパイスが混ぜられたスープ、珍しい芋をまた珍しい葉で包んだ蒸し料理……
やや
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