白き者の遊び

その少年はいつもいじめられていた。
「やーい、やーい! しらが頭のクソジジィ〜!」
村の子どもからも
「ついてくるんじゃねーよ!」
「あなたが来るだけで私たちがめいわくするのよ!」
兄や姉からも……
「どうしてこんな子どもが生まれたんだろうね」
「まったく、あんたを産んだばかりにあたし達は大変だよ」
父や母にすら。
少年はいじめられていた。
髪が白色と言う理由で……
少年、キニスはいじめられており、いつも孤独だった。






「そうだ、ぼくなんかいなければ良いんだ。死んでしまえば良いんだ」
ある夜、粗末なベッドの上に起き上がってキニス少年はふとつぶやいた。
キニスが12才の時である。
今まで村の子どもや親兄弟のいかなる仕打ちにも我慢していたキニスだったが、死ねばもう我慢する必要がないと気付いたのだった。
『そうと決まれば話は早い。裏山に滝があったはずだから、そこに身を投げてしまおう!』
悲しいはずの考えを嬉々として決めたキニスはベッドから這い降り、適当な服をまとって家をそっと出た。





月が傾き始めた頃、キニスは目的の場所にようやく着いた。
ゴツゴツした岩に立つキニスの前には滝がある。
『ここから落ちれば、命はないだろう』
下をのぞき込みながらキニスは考える。
滝は12メートルほどの高さがあり、水は岩を打っていた。
飛び散っている水のように、少年の身体は岩に叩きつけられて無残な様になるはずだ。
一瞬そのことを想像してキニスはブルリと身震いする。
だが、もう心に決めていた。
目を閉じて顔を起し、背筋を伸ばして足を一歩、二歩と進める。
そして三歩目には、キニスの足は何も踏んでいなかった。
独特な落下感を少年が襲い、キニスと岩の距離が近づいていく……
「ダメーッ!!」
そのとき、鋭い声が滝の音に混じって響いた。
次の瞬間、キニスは背中に何かあたり、肩のあたりを引っ張られたのを感じた。
落ちていく感覚に代わり、浮遊する感覚をキニスは感じる。
彼は恐る恐る目を開けた。
岩は目の前にあったが彼はそれと衝突していないし、身体のどの部分も岩に接していない。
つまり、岩のすぐ上で浮いている。
そのままキニスはふわふわと移動し、近くの岸に置かれた。
『だ、だれだっ、ぼくをじゃましたヤツは!? ぼくはもう少しで死ねるところだったのに!』
自分を岸に置いた主を少年は睨みつけた。
女の子が腕組みをしていてこちらを見ている。
だが、ただの女の子ではない。
腰のあたりからは薄紫色の悪魔らしい翼と尾が伸びていた。
そして頭からは黒い角が二本、横から伸びている。
『なるほど、インプか……』
似たような挿絵をキニスは、教会から―――少年が住む村は反魔物領内なのだ―――配られた絵本で見たことがあった。
魔物の特徴が簡単に乗せられており、対処法が載っている絵本だ。
その絵本には「魔物は非常に危険な存在で、出会ったらすぐに逃げなければならない」と書かれていたが……
『見たところ、そんな危ないものに見えないんだよな……』
キニスはまじまじとそのインプを見た。
見れば見るほど可愛い女の子にしか見えず、とても危険な存在には見えない。
と、突然そのインプが叫んだ。
「何やっているのよ、あぶないじゃない!」
その言葉でキニスは自分が自殺しようとしていたことを思い出し、それを邪魔した目の前のインプへの怒りが湧き上がってきた。
「死のうとしていたんだ! それをお前がじゃましたんだ! なんでじゃまをした!?」
「だって、ビアンカは人間に死んでほしくないんだもん!」
どうやら、このインプはビアンカという名前らしい。
そのビアンカが金切り声を上げる。
「ぼくが死んだってだれも悲しまない! お前はぼくの友達でもなんでもないだろう? 放っておいてくれよ!」
「じゃあビアンカがいまから友だちになるもん!」
キニスの叫びに負けじとビアンカは叫ぶ。
インプらしい、子どもじみた思いつきのような言葉にキニスは苛立つ。
さらにインプの無神経な、わざわざ傷をえぐるような問いかけに逆上した。
「なんで死のうとしたのよ!?」
「……ぼくはいつもみんなにいじめられていたんだ! 村のみんなに、兄さんに、姉さんに、そして父さんにも母さんにも!」
自分のコンプレックスを口にするのは腹が立つものだったが、自殺を心に決めていた上に逆上していたキニスは一気に叫んだ。
「髪が白いせいで!!」
ビアンカの目が驚きに見開かれた。
いきなり怒鳴られたり、ショッキングなことを伝えられたりしたら、子どもなら泣いてしまうだろう。
だがビアンカは泣かなかった。
驚きの表情は退いていき、不思議そうな表情に変わる。
次に口を開いたとき、その口調は静かだった。
「……ビアンカもかみは白いよ?」
今まで、角と顔に目が行っていたが、なるほ
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