終章 終わりは明るい始まりで

「人間って欲深い……」
先程まで淫らな声と音が響いていたラブホの一室にぽつりと声が響く。
斉田のものだ。
彼女の未練は「遊びたかった」「佐々木 龍介に愛されたかった」であった。
それが叶えられた今、本当なら斉田は成仏するはずだ。
だが斉田は成仏していない。
今、俺の隣に全裸で横になっており、さっきのようなことをつぶやいている。
なぜなら……
「佐々木君とエッチしたら、もっともっと佐々木君が欲しいって思っちゃって……人間って本当に欲深いわね」
「お前、もう人じゃないだろう」
俺の言葉にくすくすと二人で笑い合う。
そう、願いが叶ったからそれで解決したわけじゃない。
むしろ未練は「もっと激しく」「もっとたくさん」と募る一方だ。
だから斉田は成仏することなく、俺の隣にいる。
そして俺も、斉田と一緒にいたいと願っていた。
「ねぇ、佐々木君。これからもいっぱい遊んで、デートして、エッチしようね」
「ああ、そうだな……ん?」
斉田の言葉に俺はハッとした。
何か……何か、大事なことを忘れているような気がする。
今、斉田はなんて言った?
いっぱい遊んで、デートして、エッチして……
「あああっ!? いけねーっ!?」
「ど、どうしたの?」
急に大声を出した俺を斉田は目を丸くして見る。
そんな斉田を見返し、俺は忘れていた大事なことを彼女に伝える。
「俺……まだ斉田に、告白していない……」
そう、エッチはしたのだが、まだ肝心の言葉を言っていなかったのだ。
俺の言葉に斉田もあっと言ったような顔をした。
二人の間に気まずい沈黙が流れる。
そしてややあったあと、斉田が俺をぽかぽかと叩き出した。
「わわわっ!? いて、ちょっ! 斉田、痛いって!」
「もーうっ! 佐々木君のバカバカバカ! ファーストキスも初エッチも好きな人だけど彼氏じゃない人が相手になっちゃったじゃない!」
俺を叩きながら斉田が叫ぶ。
ああ、これは俺が悪かった。
忘れていた斉田も斉田だけど、これはミスだったな。
かと言って、そのままにしていい話でもない。
俺はギュッと斉田を抱きしめ、耳元で囁く。
「斉田……」
「んぅ?」
急に抱きしめられて驚いた斉田だったが、動きを止めて俺の言葉を待つ。
密着しているため、二人の高鳴っている鼓動が聞こえた。
二人とも同じくらい、エッチの前以上に緊張している。
だがこれは男から言わないといけないと俺は思うし、斉田の妄想もそのはずだ。
俺は息を吸い、一息に吐き出しながら斉田に告白した。
「俺は斉田が好きだ。付き合ってくれ」
「……うん♪」
二人とも短い言葉だったけど、万感の思いがこもった告白と返事……
そして俺たちはその気持ちをさらに表すために、抱きしめあったままそっとキスをした。





あれから2ヶ月が過ぎ……





東帝大学の紅桜門前にて……
「ごめーん、待った?」
「おう、待った待った」
門の前で俺は斉田の迎えに来ていた。
約束は5時だったのだが、斉田は30分ほど遅れてやってきた。
「もう、そこは『大丈夫、今来たとこだよ』って女の子に言いなさいよ!」
「いやいや、そう言ったら『約束の時間を破るな』って言うだろ?」
「バレたか」
ペロリと舌を出して斉田は笑う。
「というか、女の子を迎えに来たのに徒歩って何? 紳士なら赤いスポーツカーで花束を持って女の子を迎えに来なくちゃ!」
「その妄想、どんだけ昔の少女漫画の話だよ……」
「あ、そうよね……今時は機能的なミニバンでカーセックスよね!」
その妄想が俺の中に流し込まれてくる。
後ろのシートを倒して車内を広くし、あぐらをかいた俺の上に斉田が後ろ向きで腰を下ろしていき……
おいおい勘弁してくれ……まだ日があるのに、そしてこんなところで勃起したくないっつーの。
「まぁ、車はもうちょっと待ってくれ。今教習所に通っているから……」
「楽しみにしているわよ。ドライブ行って、カーセックスができるのを♪ それより今日はどこ行く?」
結局カーセックスはしたいのかと苦笑しながら、俺はポケットに手を突っ込む。
そしてチケットを二枚取り出した。
「静海公園の近くの水族館が今の時期、アフター5キャンペーンをやっているらしいんだよね。という訳で、どうだろう?」
「いいわね♪」
ぴょんと斉田は飛び跳ねる。
嬉しそうで何よりだ。
こんな表情、生前では見たことがない……



俺と斉田が付き合い始めたあと、どうなったか……
斉田はまだ大学での目標が見つけられていないけど、とりあえず東帝大学に通うこととなった。
通いながらゆっくり目標を見つけていくつもりらしい。
だが大学に通うためには学費などを親に頼らなければいかない。
親にゴーストになったことを知らせ、話し合いをする必要がある。
だが、それもなんとかなった。
斉田の両親も、斉田が死んだ時に今
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