だいしゅき! Gyu♥&Chu♥

「おーっす! ごめん、待った?」
「あまり待ってない……」
恋人たちの定番の待ち合わせスポット、靜海公園の時計塔に陽気な声が響き、それに対して陰気な声が答えた。
陽気な声は男の物、陰気な声は女の物だ。
「そもそも、約束の時間よりまだ10分早いじゃない……」
「いやぁ、女の子を待たせる訳にはいかないからね。 おっアキ、俺がプレゼントした服を着てくれているじゃん」
「浩介がプレゼントしてくれたものだから……」
恥ずかしそうにアキと呼ばれた女性が足を動かす。
だが、その動きは形容するとしたら『ワキワキ』と言ったもので、決して人が出来る動きではない。
それもそのはず、アキ―――木下 晶子は人ならざる存在だ。
ミニスカートから覗く下半身はまさに百足(ムカデ)……そう、彼女は大百足という魔物娘である。
「でも……この服って、胸が大きな人が着るものじゃないの? 小さい私が着ても……」
「いや、スマートに見えて、俺はすごく好きだぞ」
恋人の浩介の太陽のように眩しい笑顔からアキは顔を背ける。
「バカ……そんなに素直に言われたら恥ずかしいじゃない」
「ん? 何か言った? そんな暗い顔しない♪ 物憂げな顔も可愛いけど、にっこり笑った顔の方が好きだよ」
「……バカ」
浩介の言葉にますます晶子は顔を赤くして俯く。
だが次の瞬間には顔を上げ、浩介が好きという笑顔を浮かべていた。
「それじゃ、行こうか」
「うん」
二人は手を絡め合い、歩きだした。


二人とも大学の期末試験で忙しく、この2ヵ月近くはデートらしいデートができなかった(晶子が我慢できずに何回かエッチはしたのだが)
だがその試験も終わってようやく解放され、春休みになり、時間がたっぷりできた。
今日はその春休み第一日目で、時間はたっぷりある。
さっそく二人はデートをすることにした。
今日は近くにある靜海ポートランドという福来レジャーランドが管轄している遊園地に行く予定だ。
浩介の兄、晋介は福来グループの会社で働いているため、社員割引のチケットを持っていた。
これを使って二人は遊園地に入り、心行くまで弾けて遊ぶつもりだった。
しかし……
「あちゃー! まさか天気予報がこんなに大外れになるとはなぁ……!」
ごうごうと音を立てて雨が降る中、浩介が困った声を上げる。
もっとも彼の声は明るく能天気な響きがあるので、あまり困っていないように聞こえるのだが。
予定通り遊園地に行き、二人はそこそこ楽しんでいた。
特に二人が楽しめたのは、晶子が怖がって浩介に腕や百足の肢でしがみつく、ジェットコースターやお化け屋敷である。
浩介は彼女の仕草が嬉しかったし、可愛いと思った。
しがみつく晶子も、浩介の体温を感じることができて嬉しかった。
そんな感じで二人は楽しんでいたのだが、お昼を過ぎたあたりで突然豪雨が降りだした。
豪雨の影響でアトラクションのほとんどは機能停止してしまった。
「仕方がないから……ここを出よう? 濡れてしまう……」
「傘くらいなら売店とかで買えるさ」
「浩介が風邪をひくのが心配」
「なぁに、俺よりアキが……へっくし!」
カッコつけて明るく言おうとした浩介だったが、言葉の途中でくしゃみをしてしまう。
浩介のくしゃみで、晶子の中で次の予定が、目的地が決まった。
「魔物娘は頑強だから平気……行くよ」
「行くってどこへ?」
「温まれる場所に……」
「何、喫茶店? って、わわわ!?」
浩介が奇声を上げた。
晶子の百足の肢によって持ち上げられて抱きしめられたからである。
この状態では晶子の好きなようにされ、自分の意思とは無関係に運ばれてしまう。
お姫様抱っことは異なるが、男としては情けない状態に浩介はもがいた。
「自分で歩けるって! くしゃみしただけで、そこまで重病じゃないって!」
「行くよ……」
喚いてジタバタする浩介を無数の肢で拘束し、晶子は目的地に向かって歩きだした。



「……なるほどねぇ、確かに温まれる場所だね」
無理やり晶子に連れてこられた場所に入り、浩介は納得する。
晶子が浩介を連れてきた場所は近くのラブホテルだった。
コンビニで傘などを買ったりするより、風呂やシャワーに入った方が温まることが出来るだろう。
早速シャワーに入ろうと浩介はシャツを脱いだ。
「 アキ、一緒に……うおっ!?」
浩介の言葉が途切れる。
晶子が後ろから腕と肢を使って抱きしめていた。
「シャワーより、私の身体で温める……」
「あ……いや、その……」
いつの間にか上半身の服は脱いでしまったようだ。
浩介の剥き出しの背中に晶子の素肌が当たっている。
その感触と晶子の体温に浩介の心拍数は上がっていく。
だが、それだけではない。
「うくっ……」
かすかな痛みが背中や首筋に走り、浩介は呻く。
晶子の毒針が刺さっていた。
大百足が口や肢に持
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