「こーいちー! フランクフルト食べたいぞーっ!」
「一本200円もするボッタクリじゃないか、歩美。そんなものに浪費していないで、ほら、いくぞ」
今日、俺こと耕一は同じクラスで彼女の、ワーウルフの歩美を誘って近くの縁日に来ていた。
一年前に同じ高校に入学した時から気になっていた子だったから、付き合えてとても嬉しい。
ちなみに付き合って2週間も経っていない。
仲良くなったきっかけは一か月前、夕立に降られた時だった。
雷雨を避けて一緒に雨宿りをしている時に距離が一気に近づいたのだった。
それで、夏休み前の終業式の時に俺が告白してOKを貰ってから付き合い始め、今に至る。
そして、今日は彼女と夏祭りという一大イベントだ。
それも二人とも浴衣姿。
髪と同じ黒色の浴衣に可愛らしいピンク色の帯という歩美の姿にドキドキしてしまう。
それだというのに・・・
「食べたいーっ! フランクフルト食べたいぞーっ!」
涎を垂らして歩美はおねだりしている。
「さっき焼きそばにたこ焼きに焼きとうもろこしにリンゴ飴に綿菓子まで食べたじゃないか。まだ食べたいのかよ?」
「うがーっ! 食べたいぞ、肉ぼ・・・」
「その言い方はやめろーっ!」
今始まったばかりではない。
屋台の物を食べたいとだだをこねてばかりだ。
別にお金に関してはこの日のためにそれなりに貯めておいたし、歩美もお金を出したりしているからまぁいいんだけど・・・
「はぁ、食べてばかりじゃないか・・・」
結局俺は折れてフランクフルトを2本買い、歩美に与える。
歩美は尻尾をちぎれんばかりに振ってフランクフルトを受け取ってかぶりついた。
「わーい、ありがとう♪ 耕一大好き♪」
おごったから大好きという訳ではないのだろうが・・・でも、こう言われたらやはり嬉しい。
この仕草を見たくてついついさっきから歩美のおねだりに折れている。
「さっきから食べてばかりじゃないか。綿菓子とリンゴ飴はともかく、焼きそばもフランクフルトもいつだって食べられるのに・・・」
「甘い甘い。祭りの時に食べるからこそ、なんだよ」
肉球が付いている獣の手で歩美はチッチッチと指を振る。
「それだったら、金魚すくいとかヨーヨーすくいの方が祭りらしいというか・・・」
「何? 耕一はそれがやりたいの?」
「えっ? いや、特にそれをすごくやりたいというわけでもないんだけど・・・」
思わず俺は口ごもる。
そう、やりたいというわけでもない。
金魚なんて飼いたいとは思わないし、水が入った風船ヨーヨーで遊ぶ年でもない。
何となく、それが祭りの雰囲気だと思っていた。
けどそれだけだと、歩美の焼きそばやフランクフルトを食べる動機と何ら変わらない。
「じれったいなぁ・・・ほら、あそこでやっているから行くよ!」
「あっ、お・・・」
おいと言おうとして俺の言葉が途切れる。
歩美が俺の手をつかんで引っ張っていた。
付き合ってすぐ手をつなぎ始めたから別に驚くことでもないのだが、心が弾んだ。
いざ、金魚すくいをすることに。
おっちゃんに二人分のお金を渡して俺はしゃがみこむ。
「で、やりたいとは言うけど、耕一、すくえるの?」
すぐ横にしゃがみこんだ歩美が訊ねる。
彼女曰く、今まで一度も成功したことがないらしい。
だからこういうものより食べ物に目が行くようになったのかもしれない。
「まぁ、頑張ってみるよ」
そう言って俺はおっちゃんからすくうポイをもらって構えた。
金魚すくいのコツは3つだ。
ポイを水につける時は一気に全面につける。
紙に水圧がかからないように斜めに入れる。
金魚は追いかけずに動きを予想して先回りする。
この3つだ。
これに気をつければ・・・
「・・・よっと、一匹! 二匹っと!」
「お〜! 耕一すごいじゃん!」
もう既に紙が破れてしまった歩美が隣で歓声を上げる。
まぁ、さすがに俺も名人というわけではないので、三匹目をすくおうとしたところで破れてしまったが。
それでも、歩美に褒められていい気分だった。
そして俺は気づく。
ただ祭りの雰囲気を楽しむために金魚すくいをしたかったのではなく、歩美と一緒にはしゃいで祭りを楽しみたかったから金魚すくいをしたかったのだと。
「もうそろそろ花火が上がるぞ」
「う、うん・・・」
お祭りもいよいよクライマックスだ。
俺たちは神社の石段に腰掛けて花火が上がるのを待っている。
この花火が何発か上がったところで、俺は・・・勇気を出して・・・!
しかしどういうわけか、歩美はさっきのはしゃぎ様はどこへやら、変におとなしい。
暗くてわかりにくいけど、すこし顔色も悪い気がする。
「どうした? 気分が悪い?」
「ううん、そうじゃないんだけど・・・」
そんな会話をしているうちに、花火が上がった。
どーんという胸にも衝撃が響く音と共に、空に色鮮やかな
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