今日は、ネコの日らしい。
少なくとも僕が暮らしていた場所ではネコの日ではなかったので、どこか別の場所の、ネコの日らしい。
ここ、猫の国は色んな場所とつながっている国で、色んな所からネコとその飼い主もとい旦那さんが来ているから、一人ひとり聞いてまわれば「ああ、今日はネコの日だったよ」と言ってくれる人はいるかもしれない。
でも残念ながら今日は、そんな事できそうにない。
事の発端は、今朝早く。
いつものように、僕とミミ――僕が昔飼っていた白ネコで、今は僕の大事な人でありネコでもある、ケット・シーと呼ばれる魔物――は、お昼くらいまでだらだら寝ているつもりで、ベッドでごろごろしていた。
そこに突然空から、いや天井から、小さな布製の袋がいくつも降ってきた。
痛くはなかったけど、それでもぽすぽすと顔の上に落っこちてきたら嫌でも目は覚める。
眠い目をこすって天井を見上げると、天井にぽっかり空いた穴から顔を出しているネコと目が合った。ミミやネコマタさんたちとは違う、普通の三毛猫。
「今日はネコの日だから、バステト様からマタタビのプレゼントだにゃぁ!精々楽しむがいい!」
そんな普通のネコが喋るのにも、もうすっかり慣れっこ。
「ネコの日……?」
「222でにゃんにゃんにゃん!で、ネコの日!」
なにが222なのかも分からないまま、三毛猫は顔を引っ込めてしまった。
天井に空いていた穴も消えて、マタタビが入っているらしい袋だけが残る。
「なんだったんだろう……」
僕はネコたちほど鼻が良くないから、いっぱい降ってきてもそこまでマタタビの匂いは感じない。
でも、ミミは姿は変わってもネコだから、こんなにいっぱいマタタビがあったら大変だろう。早く片付けてあげよう。
「朝から、騒がしいにゃぁ……」
案の定と言うか、ベッドに潜って寝ていたミミが不機嫌そうに顔を出した。
もふもふとした体をぐいんと伸ばして、あくびを一つ。
「ごめんね、ミミ。なんか、今日はネコの日なんだって」
「そんなのどうでもいい……?」
そのままベッドに潜って寝直すのかと思ったけど、ミミはぴたりと動きを止めて、僕の顔を見た。
自慢じゃないけど、ミミはとてもかわいい。ネコみたいな、というかネコの顔なのだけれども、かわいい。とても綺麗な目をしていて、ちっちゃくて、真っ白い毛並みで、どれだけ撫でていても飽きない。
「……んふ、んふふふふぅ」
そんなミミがいきなりほっぺたを僕の首のあたりに擦りつけてくれば、当然驚く。
たまにこういう事をしてくる時もあるけど、「甘えたい気分なのかな」というタイミングは、なんとなく事前に分かる。こんなに急に甘えてくることは、あんまり無い。
「なんっ、えっ、ミミっ!?」
「にゃぁぁぁぁ……んなぁぁぁぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ」
ほっぺたをすりすりしながら、ミミはひたすら鳴く。ベッドから逃げ出そうとすると、柔らかいにくきゅうの付いた手でがっしりと抱きしめられてしまった。
完全に動きがネコに戻っていた。というか、鳴き声がちょっと怖い。
原因は、たぶん。
「まひゃっ、マタタビで……?」
というわけで、そんな状態がお昼過ぎになっても続いている。
お腹が空いて仕方ないし、喉も乾いた。
「ミミ……そろそろご飯にしない……?」
「んぅにゃぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」
話しかけても、会話にならない。
いや、ミミと話ができることにすっかり慣れてしまっていたけれど、小さい頃はこんな感じだった気もする。
小さい体でにゃあにゃあ鳴いたり、飛び乗ってきたり。その度にミミがなにをしてほしいのか、色々試していた。だいたいは、お腹が空いているだけだったけど。
昔を懐かしんでいると、にゃあああああぁぁぁぁぁぁというすごい声が、外からも聞こえた。
うちだけじゃなくて、あっちこっちにマタタビをばらまいているのかもしれない。
誰かが掃除をしないと今日だけじゃなくて、当分は大変なことになっていそうだけれど、どうするんだろう。
「……まあ、いいか」
今日はネコたちの好きなようにさせてあげよう。きっと、他の人達もそうしている。普段から、好きなようにはされているけれど。
なにせ、今日は彼女たちが主役なのだから。
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