「髪、伸びたな」
ベッドの中、僕の髪に指を通しながら、兄さんは呟いた。
この体になってから意図的に伸ばすようにしていた髪も、結構な長さになった。でも、もしかして似合っていなかったのだろうか。
「……おかしいかな?」
「いや、可愛いと思うぞ」
不安に思って聞いてみると、思った以上の答えが返ってきた。
悪くないとか似合ってるとかじゃなくて、「可愛い」と言われるのは、やっぱり少し恥ずかしい。
「長い髪って、邪魔じゃないのか?」
「まあ、洗うのはちょっと面倒になったけれど……」
兄さんが、女の子の髪は長い方が好きだって言っていたから。
その言葉は、胸にしまっておくことにした。
兄さんが劇団に入る前に言っていた事だし、本当に何てこと無い会話の最中に聞いたから、兄さん本人はそう言ったことも、きっと忘れてしまっているだろう。
それよりも、さっきからずっと僕の髪で遊んでいることの方がずっと気になった。いやらしいことをしていた最中にも、後ろから覆いかぶさって髪にキスしたりしていた。
「兄さんって、髪好きなの?」
「好きか嫌いかは分からんが、お前の髪は触っていて飽きないからな」
今度は、思ったよりも微妙な答えだった。
飽きない。飽きないというのはどうなのだろう。
くるくる指に巻きつけたり、纏めて軽く結んでみたり。単におもちゃにされているだけの気がする。
「その、あんまり遊ばれると、傷んじゃうから……」
「すまん」
やんわりと咎めると、あっさりと兄さんは僕の髪から手を離した。
それはそれで、ちょっと寂しい。
「そうだ。父さんと母さんがこっちに来ると手紙を寄越してきたぞ」
「ほんとに?いつ?」
「それは知らん」
慌ててベッドから出て、壁にかけておいた手紙入れを漁る。
これじゃない、これでもないと取り出しては戻すのを繰り返して、ようやくお目当ての手紙を見つけた。
その文面には、確かに「新しい劇が始まったそうだから、また見に行く」と書いてあった。近いうちに来るのか、まだまだ先のことなのか、それは書いていない。
「……今度は、誤魔化せないだろうな」
「うっ……」
兄さんの言葉が刺さる。
前回、まだこの体になってからそう経っていない頃に父さんと母さんが来た時には、なんとか誤魔化し通した。
僕は厚着をしてあまり喋らず、兄さんが父さんと母さんにお酒を勧めまくる強引な作戦で、はっきり言ってだいぶ怪しまれていた。もしかして気付いていないふりをしてくれただけなんじゃないかとも思ったけれど、その後に届いた手紙たちを見るに、そうではないらしい
。
「お前のも、随分大きくなったからな」
「翼と尻尾なら、別に大きくても隠せる……って、もしかして」
咄嗟に部屋の隅へと目を向けた。
置いてある姿見に映るのは、いい加減見慣れた、そろそろ飛べるんじゃないかと思うくらいに大きくなった翼と、地面まで伸ばしてなお余る尻尾。
とりあえずそれは置いといて、若干の期待を込めて自分の胸にぺたぺたと手を当てる。
「大きくなって……ない……」
別に、「随分大きくなった」様子はなかった。
無いとまではいかないけれど、他の人と比べるたびに悲しくなるくらいに、小さいまま。
「そっちじゃなくて、下だ」
「……下って」
胸に当てていた手で、今度は自分のお尻を触る。
お尻の大きさなんて気にしたことがなかったけれど、確かに大きい気がする。そういえば、ズボンがちょっと窮屈に感じることもあった。太ったのかもしれないとばかり思っていたけれど、少し違ったらしい。
「もしかして、僕ってお尻大きいの……?」
「こちらとしては、その方が嬉しいぞ」
「……兄さん、なんかいやらしい」
「褒めてやったのに」
最近、後ろからしたがる事が多かったのはそういう事なのだろうか。髪よりも、お尻が好きなのか。
ふと、胸を大きくするためには、好きな人に触ってもらうのが良いと聞いたのを思い出した。それと同じように、という事ならば。
「……今度から、お尻触るの禁止」
「何故だ」
間髪入れず返ってきた兄さんの声は、ちょっとびっくりするくらいに悲しそうで、笑ってしまった。
言ってはみたものの、別に本気で禁止する気はない。そもそも、行為の最中はそんな事を考えている余裕なんて多分無くなっているだろう。
「……冗談だよ」
そう言われて安堵した様子の兄さんに呆れて苦笑しながら、ベッドに戻る。
今ではもう、どちらかが床で寝るような事はなくて、一緒のベッドで眠るのが当然になっていた。僕がベッドに入ると兄さんが抱き締めてくれるのも、いつもどおり。
しかし、お尻が大きいと言われると、どうしてこんなに恥ずかしいのだろう。
さっそく触ろうとしてきた兄さんの手を叩
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