ふたりでお茶会

 ここは、どこだろう。
 元々小さな身を更に縮めて、少年はきょろきょろとあたりを見回しました。
 地面はベッドみたいに柔らかくて、道はひどく曲がりくねっています。通りの両側には自分の背丈よりもずっと大きなキノコや、少年を包めそうなほどの葉っぱを茂らせた木々が立ち並んでいました。
 どこからかひそひそ話が聞こえて、人がいるのかと探してみましたが、どうやらその声は木やキノコから聞こえてきているようです。
 上を向けば、空の色は赤いような、青いような、変な色をしていて、流れる雲も絵の具のように色とりどり。
 そこは、見たことのあるものが一つも無い、変な場所でした。
 いくら好奇心旺盛な少年でも、そんな場所でひとりぼっちなのは、怖くて仕方ありません。お父さんと森へ行ったり、お母さんと街へ行くことはありましたが、知らない場所に一人で来るなんて、初めての事なのですから。

 さて、少年がこんな所に来てしまった理由は、驚くほど簡単です。
 お家の庭で木のうろを覗き込んだら、そのうろの中に落っこちてしまったのです。
 もちろん、うろは少年が入れるほど大きいものではありませんでした。それなのに、どういうわけか少年の体は吸い込まれるように木の中へと入ってしまい、地面にもぶつからず、真っ逆さまに落ちて落ちて落ち続けて、気付けばこんな場所で尻もちを付いていました。

 前に行けばいいのか、後ろに行けばいいのか。道の真ん中に落っこちた少年には、それすら分かりません。「いや、もしかしたら道から外れた方がいいのかもしれない」とも思いましたが、やっぱりそれはやめておこうとすぐさま考え直しました。だって、喋る木や草を踏み分けたら、何に怒られるか分かったものではありませんから。
 でも、座っていてもどうにもなりません。とにかく、家に帰るにはどこかに向かわないと。
 ちょっと悩んでから、少年は大きく息を吸い込んで、道端の木で一番大きなものに向かって呼びかけました。

「あの、すみません!お家に帰るには、どっちに行けばいいんでしょうか!」

 しかし、木はがさがさと枝葉を揺らして驚いただけで、それっきり黙り込んでしまいました。他の木も同じように少年の声にびっくりして、少年がどれだけ呼んでも、誰も答えてくれません。
 さあ、誰も教えてくれないとなると、どっちに行けばいいのか自分で考えるしかありません。
 前の方は、少し行ったところで道が右に曲がっていて、その先は見えません。
 後ろの方は、道の真ん中にとても大きな木が立っていて、どれだけ見上げてもその木のてっぺんは見えそうにありません。もちろん、その後ろに道が続いているのかどうかも、見えません。
 でも、少年はとりあえず大きな木へと行ってみることにしました。
 木に入ってこんな所に来たのですから、同じように木に入れば帰れるかもしれないと思ったからです。
 もし、あの木も喋る木だったら、その時はあらためて道を尋ねる事もできます。大きな木はお年寄りの木だと、少年は知っていたのです。

 道端に落ちていた瓶詰めの飲み薬やピンク色の水たまりなどを避けてしばらく歩くと、木は少年の想像よりもずっと大きかったことが分かってきました。
 幹の太さを測るのにどれだけの長さの紐がいるのか、想像もつきません。周りをぐるりと歩いて後ろに回り込むのだって一苦労です。
 その喋らない大きな木の向こうには、残念ながら道はありませんでした。たくさんのキノコで、行き止まりになっています。
 でも、その行き止まりに、真っ白な布のかけられた長いテーブルが出ていました。
 ゆうに十数人は囲めそうなテーブルですが、椅子は端っこに三脚だけ。一つは肘掛け付きでふかふかの椅子。あとの二つは、適当に組んだような木の椅子です。
 テーブルの上には、様々なお菓子とティーポット、それに、空っぽのティーカップがたくさん。
 少年も、お母さんがお茶会を開いたところは何度か見ましたが、こんなにいっぱいティーセットが並んでいるところは見たことがありません。「このお茶会を開いている人には、たくさんのお友達がいるんだな」と、少年は感心してしまいました。
 しかし、テーブルに並んでいるクッキーやパイは焼き立てのいい香りがしているのに、周りには人一人見当たりません。たくさんのお友達が居るはずなのに椅子が三脚しか無いのも、よく考えればおかしな話です。

「なんだなんだ、キノコたちが随分怖がっていたからどんな怪物かと思ったら、普通の男の子じゃないか」

 かと思えば、突然、テーブルの下から声がしてきました。
 垂れ下がったテーブルクロスのせいで、今までそこに誰かがいることに少年は気付かなかったのです。
 少年が驚いて立ち尽くしていると、白いクロスを手でかき上げながら、つばの広い帽子を被った綺麗
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