「それでですね、そのときお姉ちゃんが――」
昼過ぎの街路。
露店で買ったホッドドッグを食べつつ、僕とシエラは談笑していた。
知り合ってから既に数週間が経ち、季節は本格的に夏。おまけに今日は珍しく霧が晴れて、海にでも行きたくなるような陽気だった。
それでもシエラは日焼けが嫌なのか、ストッキングを履いている。
「へー……。結構嫉妬深いタイプだったんだね、お姉さん」
「なんていってもラミア類ですから……はむ。んむ、んむ」
街路沿いの露店で買ったホットドッグを二人して食べる。
こんがりと焼き目のついた太めのソーセージ、しゃきしゃきとした色鮮やかなレタスに、マスタードとケチャップがこれでもかというほどかかったバンズ。
シエラは口周りについたソースを時折舌で舐めとりつつ、故郷や家族の話を沢山聞かせてくれる。
知り合ってよく分かったが、彼女はむしろおしゃべりな方だった。決して話し上手ではないのだけれど、話すのが楽しくて楽しくてたまらない、といった風に語るので、自然と引きこまれてしまう。
……家族の話題の大半が昼ドラ的な、男を巡るドロドロした争いであるのが少し気になるけれど。
「……と、そろそろ講義行かないと」
話しているうちに昼休みはあっという間に過ぎ、3限の時間が迫っていた。
「ホットドッグはどう? おいしかった?」
「ええ。……先輩と知り合ってから、ジャンクフードにはまってしまったみたいです。わたし、太ってませんか?」
困ったような笑みを浮かべながら、お腹の辺りを擦るシエラ。
「大丈夫大丈夫。じゃ、教室いこっか」
「はい、一緒に……」
言いさしてふわ、と欠伸をするシエラ。開いた口から、細く先の割れた舌が覗く。
「ん、なんか眠そうだね。昨日寝るの遅かった?」
「あ……いえ。ちょっとその……悩みがあって、なかなか寝られなくて」
「大丈夫? 僕で良ければ、相談乗るよ」
「……ええ、そうですね。そのうち、是非お願いします」
まっすぐにこちらを見るシエラの視線は、真摯そのもので。
聞いておきながら扱いあぐねた僕は、ただ曖昧に微笑んだのだった。
「――というわけで、アンフォルメルを代表する画家の一人、ジャン・フォートリエは……」
映像を扱う都合上、窓を閉め切られた暗い教室。
出席も取らないために人の姿はまばらで、数少ない出席者も寝ているのがほとんどだったりする。
そんな中シエラは、わざわざ僕に合わせて正式に受講してもいないこの講義を受けてくれていた。
現代美術を扱うこの講義は、多少なりとも彼女の専門と関わるからだろうか――僕よりも真面目に受講しているくらいだ。
……が、今日に限っては様子が違った。
講義中にふと、隣からペンの音がしないことに気づき、ちらりとシエラの方を見やると。
「……」
頭がふらふらと揺れている。
珍しいことに、どうやらシエラは居眠りをしているようだった。
……目隠しのせいでわかりづらいけれど。
と。
ふらふら揺れていた頭の重心がこちらに傾き、身体ごとこちらへしなだれかかってくる。
「ん……んう……」
むずがるような声とともに、腕を僕の身体に巻き付ける。
ラミア類特有の身体の柔らかさ。髪からふわりと香るシャンプーの匂い。ワンピースの襟元から覗ける胸元。
それだけでも充分に役得なのだが、それらに加えて――
黒い、薄手のストッキングに包まれた彼女の蛇身。
偶然――ほんとうに偶然だが、彼女が僕にもたれかかった拍子に、人間でいう太ももの辺りの蛇身に、僕の左手が触れていた。
艶やかな蛇身はひんやりと心地よく、ストッキングの生地越しにもすべすべとした感触が手に伝わってくる。
……僕は考えを改めた。
ストッキングというのは目で愛でるものだと思っていたが――手で触れたときのその感触の、なんと素晴らしいことか。
――そして。
役得、千載一遇、男女七歳にして席を云々などといった言葉が胸のうちに去来する。
どうせもう触れているなら、もう少し範囲拡大してもいいのではないか。
そう、偶然。手が滑っただけ。
スカートの下辺りに触れている手をもう少し伸ばし、スカートの中にまで侵入、そのまま腰の側面、腰骨の横に沿ってくびれまで撫で上げる。
「ああ……」
思わず感嘆のため息をついてしまった。
人間と同じくラミアの蛇身も、上部に向かうにつれ太くなってゆき、人の身体の部分との接合部できゅっと締まっている。故にその少し下あたり、蛇体の腰回りの一番むっちりとした部分は熟れきった果実の如く、ストッキングの生地が限界までぴっちりと張りつめており、より蛇体の質感が強く味わえる。
(……つまり、ストッキングの厚さ・張り具合は、触る部分によってグラデーションのように異なっていて
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