旧校舎にチャイムは鳴らない。教室のほとんどが新校舎に移ったいま、この旧校舎は半ば物置と化しているから。
学校という場所にあるべき喧騒はなく、ただ僕の足音が廊下に谺する。
誰もいない四階の角部屋。「オカルト研究会」と手書きで記された札が下がるその部屋の扉を、今日も僕は開く。
「――あら」
今日は少し遅かったのね、と。
澄んだ声の主――藤夜(ふじよ)先輩は部室の中央、深紅色のソファに腰掛けていた。めくっていた単語帳を閉じて、腰まである長髪を後ろに払ってにっこりと微笑む。先輩は細目なので、笑うとなんだか猫のように見える。
「いえ、ホームルームが長引いてしまって……」
かばんを下ろして、微妙に距離を置いて先輩の隣に座る。名状しがたい触感のソファは先々代の部長が買ったコレクションの一つで、深海生物の触手をクッションの綿につかったものらしい。その真偽はともかく、部室にある先々代部長の蒐集物のなかでは、まだ有用性が高い方だろう。
「あれって不毛な時間よね。紅茶飲む?」
「頂きます」
そろり、と立ち上がって、先輩が私物の紅茶をカップに注いでくれる。ダージリンかアッサムかわからないが、きっと良い茶葉なのだろう。芳醇な香りが辺りを漂う。
「はい、熱いから気をつけてね……。で、今日は何の本を読むの?中原中也?原民喜?そういえば読みさしのショーレムはどこへいったのかしら」
先輩はくすくすと笑う。
「紅茶ありがとうございます。……あれはまだ積んでますよ。今日は課題の英文和訳でも進めようかな、と」
「あら、真面目」
先輩はソファに戻って、僕のすぐ隣に腰を下ろす。紅茶の香りに混じって、先輩の匂いがふわりと漂った。
僕を真面目、と評した先輩は、けれど僕より遥かに真面目で頭も良いのだった。うちのような、いいとこ中堅の進学校にはもったいないほどの秀才だと聞く。
おまけにすごく――美人だ。腰ほどまである、濡羽色の流れるような長髪。細く、華奢な体つき。ただ表情は、いつも伏せているような細い目とも相まって、どこか陰があるように見える。先輩に彼氏がいないようなのは、この暗さのせいなのかもしれない。
「……」
「なあに?」
気づくと、先輩が可笑しそうな目でこちらを見返していた。僕は照れ隠しに紅茶を啜る。本当はもっと先輩を眺めていたいのだけれど、必ずバレる。先輩は、どんなに勉強に集中しているように見えても、僕が見ているとすぐに視線が合うのだ。
不思議。
視線に敏感なのかもしれない。……あるいは僕の目つきがよほどいやらしいか。
「あ、紅茶、すごく美味しいです。先輩が持ってきてる茶葉ですよね?なんか独特の甘みがありますよね」
「茶葉にはそんなに高いものではないけれど、淹れ方には結構こだわってるのよ」
そう言って、藤夜先輩はこころもち胸を張ってみせる。服の上からだとあまり目立たないけれど、体が細いから実はけっこう巨乳っぽい。
「黒峰くん、視線の動きが分かりやすいのね」
胸を手で隠す素振りをしながら、先輩はまたくすくすと笑う。
流石に今度は赤面を隠せず、僕はテキストをかばんから引っ張りだした。もう勉強に集中しよう。
「あれ。黒峰くん?……寝てる?」
数十分後。黒峰くんは机の上に広げたノートに突っ伏して寝ていた。
「育ち盛りだものね」
わたしはそう嘯いて、彼の寝顔をじっと見つめる。中性的、というのだろうか。透き通るような白い肌といい、長い睫毛といい――ともすれば女の子に間違えられそうな、フェミニンな雰囲気を漂わせた面立ち。
やや長めの前髪をかき分けて、そっと頬を撫ぜる。……起きない。よほど深く眠っているようだ。
「……この薬、本当に良い効き目ね」
制服の胸ポケットから白い錠剤を取り出す。通販で買った睡眠剤。バフォメット製薬、とか言う企業の製品だったか。仮にも危ない薬を飲ませるわけにはいかないので、慎重に調べて買ったのだけれど、こんなに効くとは思わなかった。
ちなみにタネはびっくりするほど簡単でつまらない。彼がいつも使うマグカップに、予め睡眠剤を入れておいて、紅茶を注いで渡すだけ。
「よいしょっ、と」
彼の上体を起こしてソファに凭れかけさせると、わたしはその前に跪き、スラックスのジッパーを下ろす。そっと手を忍び込ませると、お目当てのものはすぐに見つかった。彼のペニス。彼の細い外見からすると意外なほど太くて長いそれは、わたしの手で探り当てられただけでもう半勃ちになっている。
「もしかして、わたしのおててのこと、覚えてくれてたのかしら……?」
彼のペニスの反応が嬉しくて、竿を揉むように扱いてやる。すぐにそれは硬く反り返り始めて、下着の中に収まりきらなくなった。スラックスに引っかからないように気をつけつつ、外に出してあげると、ぶるん、と大きく跳ねる。
ほんとうに、大きい。
血管が
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