あれはまだ魔術の学校にいたころだ。
自分の学校には魔界の王女様がいて、クラスの男子はみんな彼女に夢中になった。もちろん自分もだ。
運に恵まれていたのか彼女と席が隣同士になったりダンスの授業で彼女とペアを組んだりと
どういうわけか彼女と付き合うチャンスは多かった。
これは運命だと当時は本気でそう思っていた。
彼女に告白して、失恋するまでは。
いろいろと何か理由らしいことを申し訳なさそうに彼女は説明していたがフラれたショックで何を言っていたのかよく思い出せない。
それでも彼女は困った笑顔で自分のことを慰めていたような気がした。
優しい彼女らしい対応だった、と思う。
ふとそんなことを思い出してしまったのは彼女との再会だった。
彼女とはほんの些細なきっかけで再び出会ってしまった。
(はあ…疲れた…。)
仕事に疲れてエレベーターに乗る。
学生のころとは違って自分はもう立派な大人だ。
朝起きて会社に行って仕事をやって家に帰る。
旅行にも行かないし、休日は寝て過ごす。
仕事はようやく慣れてきたものの、年々業務は増すばかりだ。
そんなことを考えていた時だった。
左腕を誰かがトントンと叩いてきた。
「こんばんは。」
「…リリムさん!?」
「あ、一発でわかったんだすごーい!私もね?君がライくんだって一目でわかったよ。」
うっかり彼女とエレベーターで出会った。しかも同じ会社のビルだ。
驚きを隠せなかった。
彼女は昔のように人懐っこく、きれいな姿で、もう10年近くたっているのに自分の心をときめか
せる。
が、なんというかその……フられた時の後遺症というか……合わせる顔がない。
なるべく視線を合わせないように体だけ彼女の方に向き直った。
「君は…昔とぜんっぜん姿が変わってないね…。」
「うーん。魔物って長寿だし?姿もあまり変わらないから。」
ぴょこぴょこと近寄り自分の顔を見上げるリリム。
背丈もあのころのまま。
当時は「これから成長期だ」と言い張っていたがあきらめてしまったのだろうか。
自分の会社は大手の総合商社である。
様々な部署が一つの会社のように独立している為、お互いの部署は関係性を保ちながらも接点があまり
ない部分がある。
そんなこともあってか同じ会社に居ながら彼女の存在に全くと言っていいほど気が付かなかったのだ。
かれこれ入社して2年ほどだが、こんなことってあるのか。
運命を感じる…というよりは度肝を抜かされたというのが正直な感想だ。
「リリムさん…まさか自分と同じ会社だとは思いませんでしたよ。」
「うん、びっくり!ほんと何年振りだろ…ライ君は…男前になったかな?」
「…ありがとうございます。」
じいーっと自分のことを見つめるリリム。
あの頃と何も変わっていないような気がする。
子供っぽいしゃべり方も、ほめ方も、やたら見つめてくるのも、男殺しなところも。
こんなところが彼女が重用される所以なんだろう。
「今はお仕事何されているんですか?」
「え…?うーん…部長補佐…秘書みたいなものかな?」
「かな?ってわからないんですか。」
「雑務からスケジュール管理、体調管理から性欲処理まで何でもやるよ。」
「何でもやりすぎじゃないか!?」
「最後のはウソだよ♪」
「はは…そりゃどうも…。」
「それとも…ライ君にだけはしてあげよっか?」
えっ
あのころの満面の笑みで言われた自分は時間が静止したかのように固まった。
幾度となく彼女のことを想い続けてきたのを見透かすかのようだった。
「……考えておきます。」
「……そっか♪」
だがそんなはちきれそうな思いも今では冷静に対処できてしまう。
昔だったら赤面して石のようになっていたかもしれない。
心ときめく話ではあったが、今の自分にしてみれば昔の片思いにこだわるのはみっともない様な気がした。
自分の肯定とも否定とも取れないような返事に、リリムも肯定とも否定とも取れない返事で返した。
少々の沈黙の後エレベーターは音を立てて開いた。
―――。
「これからどちらへ? もう帰り?」
「ライ君。私が君より立場上なのはわかるけどもう終業なんだから昔どおりでいいよ。」
「そうはいっても…昔もろくに会話してなかったような気がするよ…。」
「そういえば…私が話しかけるたびにライ君はいつも固まってたっけ。面白かったなー。」
「男たらしがよく言いますね。」
地下鉄のだだっ広い駅構内で自分とリリムは歩いていた。
自分の改札口まで距離にして約200メートル。
普段歩きなれた帰り道も彼女と一緒にいると新鮮だ。
昔と違ってうぶな心が抜けた分、いろんなことを話したくなる。
「あー言ったなー? これでも好きになった男の子一筋なんだぞー?」
「男子に黄色い悲鳴を出させた王女様が
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