部屋に帰ってくるなり彼女は顔を枕にうずめて不貞寝していた。
寝るときはいつも宝箱の中で眠る彼女だが今日は俺の布団でうつ伏せになっていた。
「…何やってんだ。」
「なくした。」
「何を。」
「箱。」
「……箱ぉ!?箱って…お前の…アレ!?」
いろいろ言葉を失ってしまった。
フォローしてあげたいところだが仕事が終わってさっさと風呂にでも入りたい
この心境ではどうフォローしていいかわからなかった。
彼女にとって箱とは住処そのもの。
俺の家で同居しておきながら住処と言うのもおかしな話だが、まあ人形にはそ
れをしまう専用の箱が必要だっていうことなんだろう。
不機嫌な態度も声も全部その住処がなくなってしまったのが原因か。
普段は挑発と誘惑でそれなりに困らせてくる彼女も今日ばかりはご機嫌斜め…
いや、ご機嫌垂直落下コースだった。
あんなにキャアキャア部屋に響いてた甲高い声がこんなに暗いトーンになるの
は結構新鮮だ。
彼女には気の毒だけど。
「いや…だってさ。箱って…俺の部屋に置き去りしてあったあれだろ?なくし
たってありえないだろ?何か心当たりはないのか?」
「こないださ…家具買い取りショップ行ったじゃん?」
「ああ…防弾ガラスでできたガラスのテーブル売りに行ったな。」
「あの時に昔使ってた宝箱持っていったじゃん。」
「蓋が壊れて使い物にならなくなったって言ってたあのぼろっちいのか。確か
にまとめて売ったな。」
「それが今ここにあるんだけど。」
「……。」
「……。」
ミミックはうつぶせのままバンバンとベッドの横に置いてあった宝箱の蓋を叩
く。
蓋は叩かれるたびにミシミシと音が鳴り、蝶番がぐらぐらと揺れていた。
紛れもなく売り飛ばしたはずの箱がここにあったのだ。
「あー!もう!なんで売るときに気付かなかったの!アンタしか売ること出来
ないんだからそれぐらい普通気をつけるでしょ!!」
「お…落ち着け!枕はともかくスタンドは投げない…いたぁ!?…でっ!!」
「バカ!バカ!バーカ!あたしどこで寝たらいいんだよ!」
「だいたい俺が宝箱が壊れてるかどうかなんてわかるわけないだろ?『これも
売っといて』言ってそれっきりだったじゃないか。それに宝箱の見た目なん
て気にしないから!」
「気にしない?フツーするでしょ!男の欲望をかき立てないとミミックは生き
てけないんだぞ!」
「んなこと知るか!おれはミミックじゃねえ!!」
ああもう全ての歯を牙立てて。
布団から飛び起きたミミックはこちらに不機嫌な姿を見せた。
激しい家具の弾幕に見え隠れする相も変わらず愛くるしい姿。
これが宝箱から出てくるんだから男は幸せだよな。
今のこの姿はとてもじゃないが見せられないけど。
「お前さ…どうして服着てないの?」
「だーかーらー!例のあの箱に全部入れっぱなしなんだよ!」
「…ああなるほど。ならいつも来てるあの服着ればいいじゃないか。ほらあの
スケスケの変な服。」
「変なっていうな!あのデザインすっごく気にいってるんだぞ!男受け良いん
だぞ!そもそも昨日あれにぶっかけまくったのはお前じゃんかよう…。」
「…ああ…うん。なんかごめん。」
あのシースルーで出来た衣装はまだ幼さを残す彼女にすごく似合っている。
なんと言うか…あの衣装があってこそミミックのセクシーさとかわいらしさを
両立しているのだと思う。
そんな余裕たっぷりな誘い受けの達人がここまでただの女の子になるとは。
今の彼女をみると「なに勝手に中出ししてんだよバカ!」とか言わんばかり
の不機嫌な少女でしかない。
だんだんと落ち込んでいく彼女に平謝りをすると彼女は再び布団にもぐった。
ため息をひとつついているあたりもう本当に参っているのだろう。
男の前ならいつでもきらびやかな彼女がため息をついているのだから。
「でも箱の予備なら部屋探せばあるでしょ。服も買えばいいし。」
「マジで!?さっすがぁ〜♪やっぱりお兄さんは最高だねっ☆えらいえら
い☆」
「確かここに…よっこいせ。」
「ねえ段ボール箱とか舐めてんでしょ?」
「そんなこと言ったって他に…クーラーボックスは小さすぎるし、金庫だと
出入り不能だし。入ったら入ったでなんか死体遺棄みたいで個人的に嫌だし。」
「勝手に殺すなよう。」
「だからやっぱり段ボールが一番現実味があると思う…あ、いや!宝箱だよね!
目覚まし時計から手を離してください!お願いします!」
いけない。
これ以上怒らせたら今度は電気スタンドどころか箪笥とかラジカセとか投げて
来そうだ。
「あ!そうだ!箱から箱へ瞬間移動すればいいんじゃないか?それで持って帰
れば…」
「もう試した。蓋が重くて開かなかったからもう無理だと
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