天使の休日はだいたい俺たちの平日

デパートの屋上。
そこはほとんどの場合駐車場のスペースになっている場合が多い。
最近は屋上を排して特徴的な屋根を作ることで親しみや強い印象を持ってもら
おうとしたり、あるいは単純に憩いの場になっていたり。
社主のセンスあふれるそのスペースは、理念や理想が詰まったエゴの一部がに
じみ出ているような気がする…と、まあ俺は思ったりする。
そう考えたらうちのデパートはどうだろうか。
ゲームコーナーの一部が屋根で覆われ、空が一望できるようになっているいま
どき珍しいフェンスで囲まれただけの屋上だ。
500円で5分しか動かない巨大なパンダとウサギの乗り物。
今では誰も運転できなくなって猿回しの人専用になったものすごく小さな機関
車。
流行りのカードゲームの機械、メダルゲーム、レトロなアクションゲームやモ
グラたたき。
自分で言うのもなんだがこれぞデパートだと思う。
そしてうち以上にデパートって感じのデパートもないと思う。
今でこそ様々な専門店が店舗内で幅を利かせているがここだけは譲れない。
これは個人的で些細な最後の砦なのだ。

「えーと…君たちは…」

「はい!エンジェルです!」

「僕はダークエンジェル。」

二枚の履歴書を見比べながら少女二人を見比べる。

かたや金髪色白少女。
元気でハキハキ挨拶もきっちりできる。
笑顔も素晴らしい、まるで天使のようだ。

かたや年に似合わず無愛想な褐色少女。
こういうタイプは一見売り場やレジは任せられないように見えるも、中身はし
っかりしているもんだから仕事はしっかりとこなしてくれるタイプだ。

「いや、面接始まってないですから。」

「え!?あ、すみません!」

「もう、せっかちなんだからエンジェルちゃんは。」

「だっ…ダークちゃんだって名前いったくせにー!」

「はいはい、喧嘩しないの。」

露骨にぷんすかぷん!みたいな怒り方するねこの子は。
駄々っ子パンチを面接官の前でする人は初めて見たよ。
目の前の余りの光景に苦笑いを浮かべながら俺はうっかりテーブルに肘をつい
てしまった。
今、俺の目の前には二人の少女がいる。
仕事もようやく休憩時間になり、買っておいたお茶でも飲もうと事務所に入った時だ。
ドアを開け目に飛び込んできたのが彼女たちだった。
ちょこんと応接用の椅子に座る彼女たちはさながら人形のように座っていて…
そこはまあ何となく予測と理解の範囲内の出来事だったが、すぐに些細な異変に気づく。
各々の目の前に置いてある、各々の履歴書。
迷子か何かだと思ったが違うのか。
とりあえず自分には関係ないと思い無視してお茶でも飲見始めようとしたが、
なぜか物欲しそうな目で見つめられてしまい結局彼女たちの相手をすることに
なってしまった。
もちろんただのパートのリーダーでしかない自分に採用の決定権はない。
だが期待を込めた目で少女二人が自分を視線で追いかけるので体が勝手に彼女
たちの向かいの席についてしまったのだ。
こういう時、子供のまなざしってずるいと思う。
…まあ見ればわかるが聞けば働きたいとのことらしい。

「そもそもねぇ…申し訳ないんだけどうちは16歳未満は雇えないんだよ。」

「そんな!私16歳ですよ!」

「僕は16だけど。」

「いや君達ねぇ…外見で人を判断するわけじゃないんだけど…」

どう見てもお前ら子供だろう。
立場上そんなことは口には出せなかったが、そういうふうにしか見えない。
まだ子供の細さを残す体つき。
やたら可愛らしさを前面に押し出した服…というよりは衣装に近いだろうか。
もうそろそろ12月も終わりそうなのにワンピース。
ファーがあしらわれているとはいえ見ているだけでこっちが風邪をひきそうだ。
だが何よりもその特徴的過ぎる外見だ。
頭の輪っかに背中の羽。
なんだお前ら仕事中に羽伸ばそうってのか。
子供だからというより、どこか得体のしれないところから採用する気になれな
いのかもしれない。

「あっ!私たちですか!見ての通り天使です!」

「そうそう、幸せを運ぶ天使。このデパートを幸せにする代わりにお給料が欲
 しいなー…なんて。」

「は…はあ…。」

視線が羽やら輪っかに映ったのを察してか答えてくれた。
ご丁寧にパタパタと羽を動かしたりくるくる回ったり。
だがそれが一番信用できないんだよ。
なんだよ天使って。
履歴書にも普通にエンジェルとダークエンジェルって書いてあるし。
中二病をこじらせすぎて社会が見えないんだろうか。
それともこの名前は流行りのキラキラネーム?
ああでも漢字をあててないからそれは違うか…。

「お願いします!なんでもしますから!神の名のもとに!」

「僕もお願いします。お金欲しいです。」

「うーん…せめて身分証明書ぐらいはほしいかな?保険証とか持ってない
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