ようやくだ。
ここまでとっても長い時間だったような気がする。
いつもの天井を見つめながら暗くなった部屋で静かな時を過ごす。
静かでとても穏やかな時。
これも今日で最後になるのだろう。
明日、自分は結婚する。
「……ね、眠れない…。」
期待と不安がいっぱいだ。
これから大丈夫なのだろうか。
不安がよぎる。
新しく迎える彼女の事とか、それからの生活とか。
そもそも結婚式が無事に終わるかどうか。
様々な人たちに祝福されるだろうか。
「どうしよう…なんて言おう…『君を一生幸せにするよ!』かなぁ…いやでも
それほどまでにベタだとなぁ…。」
静けさがいやだ。
こういう時は明るい気持ちでいないとだめなんだと思う。
せめてせいぜい独り言で時間をつぶそうと思った。
もうプロポーズも終わったのに何を考えているんだろうとさえ思ったがそれで
も自分の独り言は止まらない。
明日の自分を勇気づけるように。
はたまた明日の不安を押しだすかのように。
「うーん…『君を一生愛してる』はなぁ…引かれるかなぁ。いやでもいっそな
りふり構わず好きだって言った方がいいのかも。好きだ!愛してる!これか
らも!!」
「あ…ごめんなさい。告白の練習中だった?また来ますね、ええ。」
「そんな!置いていかないで…っておあああああ!?誰だ!?アンタ!?」
胸を押さえながらオペラ歌手のように愛をつたえる。
さながらオペラ歌手のような状態のところを見られた。
よりにも寄ってなんでこのタイミングを見られなきゃならんのだ。
突然の来訪者に胸の高鳴りを抑えられない。
当然悪い意味でだ。
「突然おじゃましちゃってごめんなさいね。私サキュバスです。とってもかわ
いい夜の恋人サキュバスちゃんです。いえいっ☆」
サキュバスは現れるなりぴょこんと跳ねながら敬礼する。
いつの間にやらあけっぱなしの窓から入ってきたらしい。
我ながら婚前の身でありながら不用心だといいたい。
目の前の少女含め思わず舌打ち者である。
(たぶん)空飛んできたとはいえ土足で自分の部屋に入ってくるのは遠慮して
もらいたい。
「そ、そんな結婚前夜に魔物に襲われるなんて!!俺はもうおしまいだぁ!!」
「あ!結婚するんですかぁ?おめでとーございますー!わーパチパチパチー。」
サキュバスはにっこり笑いながら祝福する。
魔物にこんなこと言われるのもなんか不思議な気分だが…まあ、ありがとうご
ざいます。
「…はあ…一応聞いておくけど…家に何しに来たんだ。」
「え?吸精…」
「却下だ。」
「ですよねー…と言いたいところですがぁ。あいにく私そろそろ魔力とか精力
とか切らしちゃいそうでして…このままだと帰れないんですよぉー!助けて!
助けてください!」
「ちょっ!泣きつかれても困る!」
「お願いですよぉ!困ってる人見捨てて『君を一生愛してる』ですか?いい男
がそんな嘘いっちゃだめですよぉ!」
「ど、どこから聞いてたんだ!?」
急に静かな夜がバタバタし始めてきた。
突然の来訪者に自分の眠気は完全に冷め、緊張していた心も今は別の緊張で混
乱し始めてきそうだ。
バサバサと羽を動かしながら逃すまいと自分の事を捕まえるサキュバス。
ふにふにとした女性の柔らかさと少女の香りがふわっと鼻腔をくすぐる。
いかん、俺には婚約前の彼女がいるんだ…。
サキュバスから眼をそらし頭を正常に保とうとする。
「大体俺はこれから結婚するの!所帯持ちよ、所帯持ち!愛する彼女をほって
おいて今ここでエッチなんかできるか!」
「吸精って言っただけなのに…スケベ…」
「うるさい!それでなくたってはじめては彼女に捧げたいものなんだよ。」
「えっ」
サキュバスが急に黙りこくった。
ようやく黙ったかとも思ったがその考えは間違いだったことに気づく。
なんだろうか。
あれは俗に言う白い目で見られる。という奴なんだろう。
「うーわー。」
「な、何か?」
声のトーンが低い。
というか一定の音程を保っている。
その反応は紛れもなく、引いているというやつだった。
「ドーテーなんですか?」
「そ、そうだけど。」
「結婚前に一回もエッチしてない。」
「してないけど。」
「終わってる!!男して終わってます!」
サキュバスが頭を抱えて叫んだ。
人の事なんてどうでもいいじゃないか。
そもそも俺たちはプラトニックに恋愛をしてたんだ。
それが良かったからここまでこれたんだ。
全否定されたらここまで来れなかったとおもう。
「あのな、エッチだけが男女の仲じゃぁ…」
「はーいじゃあとっても女の子の事をわかってないおバカな新郎さんが目の前
に居るのでクイズでーす。いえーパフパフー。」
サキュバスはテンションが低いままベッドの上に腰かけ
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