あの事件から一年ほどたった。
がむしゃらに仕事をすることで私は忘れようと頑張ってはいたがそれでなくとも
基本は教団とともに街の復興だ。
一生懸命仕事に打ち込めば一年は短い。久々にそう感じさせられた。
だが実際のところは仕事に打ち込めば打ち込むほど、まるで昨日会った出来事のようにあの事件は鮮明に思い出させる。
いまこうして平和に元の生活に戻ってくるとあの出来事はすべて夢のようにさえ
感じさせられる。
あれから私は二人目の子供を授かった。
今度こそ男の子だろうと思っていたが生まれてきたのは女の子だった。
少々がっかりもしたものだがやはり生まれてくる子供は可愛いもので今はもう
よちよちとこっちに向かってはいはいしてくる。
一人目の娘も学業の傍ら店を手伝いをしてくれる。将来は私と同じ貿易業につ
きたいと言ってくれている。
嬉しい気持ちを隠せないでいるが、エミールとのあれこれがあってからだと余
り気の進む話でもない複雑な心境でもあった。
そんな中私の生活は相変わらずだった。
パンを作る仕事は嫁に一任できるようになったのでいまは貿易の
仕事にかかりっきり。そればっかりだ。
そうそう、私と契約していた魔物たちはみんな魔界へ帰っていった。
町を犠牲に契約をしたあの契約も終わってみれば教団が例の一件からこの町から
いなくなってしまったため特段魔物たちと争いが起こるわけでもなく、かといって
魔物たちも「人間がたくさんいるのはいいけれど邪魔しちゃ悪そう。」
とリリムがいろいろ話をつけてくれたみたいで特に変化することはなくなった。
何から何まですごい奴だ。
そんなこんなで私たちはいつも通りの生活に戻り、多くの人たちがいつも通りの
明日を手に入れることができた。
変わったことといえば教団がいなくなったおかげで公的施設への仲介料がなくな
ったことぐらいか。
不謹慎かもしれないがちょっとありがたい話ではあった。
さて私事のはなしになるが様々な人に第二子のお祝いをいただいたが連日それが
続いていて私個人の時間はあまり取れていない。
ここのところロクに休みを取っていない気がする。
そんなせわしない日々に明け暮れていたある時。
聞き覚えのある声が外から聞こえてきた。
少女の雑談。その声の主は私もすぐに理解できた。
「じゃ―んパンを買いにー?」
「きましたー♪」
「…そっちの子は?」
「おじいちゃんとの子供。」
「う…嘘だろ?」
「オイッス!てんちょー!パンをください!焼き立てMAX!」
アークインプの娘と思わしき少女の発言に私はたまってた疲れがどっと溢れ出
て来たような気がした。
あまり考えたくもないがあの後つまりエミールとアークインプがその…ゲフン!
ホムンクルスの体に種を仕込むことは無理だろうからきっとあとの出来事なの
だろう。
それにしてもあんな小さい体でよく頑張ったものだ。
私がとやかく言うことでもないし、この話題を振るのは野暮だろう。
「この子の教育は君がしているのか?」
「きょういく?」
「……いや…なんでもない。それよりパンだったね。クルミの入ったのが焼き
たてだよ。」
「焼きたてまーっくす!」
背格好がまったくと言っていいほどアークインプにそっくりで、目をそらした
くなる。
一体何がマックスなんだろうか。
「そういえばエミールは?」
「おじいちゃん?もうとっくに死んじゃったよ!」
「そうか…死んだか…。いやにあっさり言うじゃないか。」
「だってわたしたちにんげんよりもずーっとながいきなんだよ?」
さもそれが常識であるかのように彼女は言った。
いざこうして死別してみても彼女たちは何とも思わないのだろうか。
無邪気さとは時に酷に感じる時もあるというが彼女たちのそれは無邪気からく
るものなのだろうか。
それとも女性がよく夫の死は開放的になるとかいうあれだろうか。
アークインプも最後まできっとエミールを看取っていたに違いない。
「ね!おじいちゃん!」
「焼き立てまーっくす!」
「…え?」
アークインプが自分の娘に向かって言い放った。
ん…まさか…まさかとは思うが。
「おい…ちょっと待てエミールは死んだんだよな。」
「しんだよ?」
「じゃあなんで自分の娘に向かっておじいちゃんなんて言うんだ?」
「それは私から説明してあげるわ。」
「リリム!?どこにいたんだ」
「人間に変装してきてたんだけれど…うん、普通の服着てるとわからないのかしら?」
「おとこってバカだよね!」
「ほんとよねー」
「おばかさんマーックス!」
久方ぶりに聞いても忘れ得ぬ男をかどわかす澄んだ声。
リリムの姿がそこにあった。
特に代金を払ったわけでもないのに彼女はメロンパンをかじりながらコーヒー
にまで手をつけていた。
飲
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