すてきな契約事故

魔術師の使い魔として呼び出されることの多いインプ。
魔術の素養が必要とはいえ、魔物の中でも低級なインプを呼び出すことは比較
的簡単な召還術だ。


「はーい!呼ばれてきたよ!インプちゃんでーす!」

「同じく召還してくれてありがとう!インプちゃんでーす!」

「!?」

簡単なことほど間違えやすいことを人間は忘れてしまう。
召還し終わった時そう思ったほどだ。
我ながら自らの愚劣さに腹立たしい。
どこで何を間違ったのか二体呼び寄せてしまったのだ。



「えーと…俺が呼んだのは一体なんだが…」

「え!?」

「ホント!?」

「悪いがどっちか帰ってもらえないか?」

「インプ一匹呼べないとか…へたくそー!」

「そうだそうだー!」

「……すみません。」

なんで使い魔相手に謝ってるんだろう。
厳密に言うとまだ呼んだだけで契約はしてないんだけどね。

「君さあ、もしかして初めてインプ呼んだ?」

「絶対呼び方間違ってるよ。一体づつ呼ばれることはあっても二体同時に呼ば
 れたことなんてないもん。」

「はい…新米です…許してください。」

「でも逆にすごくない?二体同時に呼ぶなんてめったにないよ?」

「どっちか帰れって言われてんのにフォローしなくていいから。」

白い服を着ているインプと黒い服を着ているインプが楽しそうに談笑している。
どうしたものか。
片方だけだと後々揉めそうな気がするな。
やっぱり二体とも帰還の方陣でも書いて帰ってもらおうか。
そう言おうとするもなんだか二人はひそひそと耳打ちを始める。
もうこっちは蚊帳の外だ。
学校の班決めとかの人数合わせで女子と組まされた時のあの感じに似ている。


「あ、そうだ。」

「どうしたの?」

「ねえねえ…お兄さんに選んでもらおうよ。」

「うんうん。」

「それでね…」

インプ(白い服)はインプ(黒い服)に耳打ちをする。
コロコロと真面目そうな顔をしたり楽しそうに笑ったりとしていたが最終的に
両者は笑みを浮かべそれは決着がついた。
満面の笑みだった。
嫌な予感しかしない。

「そうだね…それなら私も納得してあげる!」

「きまり〜☆ねえお兄さん!お兄さんてばぁ〜!」

「おう。」

嫌な予感がするってわかってるのに返事してしまった。
俺はバカか。

「お兄さんがどっちかえらんでいいよー。」

「っていうかお兄さんが呼んだんだからえらんでいいよー。」

「ああわかっ…」

「たーだーしー!」

「私たちのどちらかはお兄さんの比じゃないくらいにとーっても強いよ!」

「え?」

どきりと胸が跳ねた。
魔術書に書いてあったことだがインプ召還の際には危険が伴う。
一つはたまに爆発する。
二つはたまに魅了される。
三つはごくたまにアークインプを呼び寄せてしまう。
というものだった。
呼んじまったか?呼んじまったのか?アークインプを!!

彼女から与えられた選択肢を前に身構える。

よく考えてみたら今日初めてインプを呼んだ。
というか初めてインプの姿を見た。
情けないことだが今日まで魔物の姿を見たことは一度だってない。
視覚的に可憐な容姿は見るものすべてを魅了させ再起不能にするというからと
いうものもあるが…それ以上に私のいた町では『魔力を持たぬ者は魔物との接
触を禁止』していた。

アークインプがいるのなら迂闊に攻撃はできない。
同胞意識はあるだろうしごり押ししようものなら逆に返り討ちにあうだろう。

二人と契約なんてもってのほかだ。
使い魔に主人の権利を与えるなど魔術師にとって屈辱だ。

なら自宅から逃げるか?
いや、無理だ。
これは魔術師としてのカンだが…インプ二人分の魔力とは思えない重圧を感じ
る。


選ぶしかない。
ここは選ぶしかないんだ。

「ねえー早く決めてよー?」

「はやくはやくぅー。」

催促するインプ二人。

「早くしないと大変なことになっちゃうよぉ〜?」

「そうだよぉ〜早くしないと大変だぞぉ〜!」

「た、タイム!タイムアウト!」

「あははっ!おびえてる!下級の悪魔相手に怯えちゃってる〜♪」

「ほんとだぁ〜♪なっさけな〜い♪かっこわる〜い♪」

にやにやと低級悪魔に嘲笑われる。
悔しいが時間を稼ぐぐらいしかもう道がない。
どうしたら…どうしたら…


「しょうがないなぁ…じゃあ『いいな』って思う方をえらんでね。」

「じゃあわたしからやっちゃうね?」

インプ(黒)は無防備に近づくとズボンにしがみつき私を押し倒す。
痛みをこらえている自分の事などどうでもいいのか私のシャツをまくり顔を腹
部にうずめていた。
彼女の吐息が間近に感じる。
そう思った時だった。

「んー…れろっ…♪」

「お!?」

「あはっ!お!?だって!」

「お兄さんおへそ弱いんだ?ペ
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