ルカ姉が一気に距離を詰めてきくる。
訓練では押されっぱなしだったが、俺だって全力でいけば十分渡り合える。
そう思っていた…
けど甘かった…
本気のルカ姉は俺の予想を遥かに越えていた。
剣撃の重み、連撃の速さ、どれも以前の数倍だった。
一方的な状況でルカ姉は楽しそうに笑いながら言う。
「フフッ、どうしたのシン、本気を出さないの?それともわざと手加減しくれてるのかな?」
何も言い返せなかった。正確には言い返す余裕がなかったのだ。
この時、俺はずっと迷っていた。
―どうすればいいか。
―どうするのが正しいのか。
だが、いくら考えても答えは出なかった。
一方的な剣撃を辛うじて受け流している中、
ふと、初めて約束をした時のことを思い出した。
「私は人を餌とする魔物が許せない、絶対に」
迷いのない言葉。
何度も聞き、俺自身も魔物に対して深く考えさせられたこの言葉。
「だからもし私が魔物になったら、その時は……」
考えている間も剣撃の雨は絶えることはなく、とうとう俺は重さに耐え切れず後ろに吹き飛び、地面に倒れ、視界に空が映った。
―見覚えのある星空―
『信じてるからね、シン』
星空の下で最後に聞いた言葉
その時、俺の中で何かが起こった。
ボロボロになりながらも、立ち上がり
懐から短剣を取出し、二刀流の型で構え、目の前の魔物を見た。
俺が隠していた、誰にも見せたことのない型。
俺は様々な感情を殺して敵に言いはなった。
「…いくよ、これで……最後だ」
「あはっ、いいよ、私の物にしてあげるよ、シン」
初撃と同様に距離を詰めてきた敵に対し、
俺は今出せる全ての力を振り絞り、主武器の剣を鎌をなげるように回し投げた。これを防ぐ事は容易だろう。
だが躱すことは困難だ。
つまり確実に防がなければならない。
俺はその読みに、賭けた。
剣を投げたと同時に俺は一直線に走りだしていた。
予想外と言う表情で敵は投げた武器を弾いた。
全力で投げただけあって、弾く際に反動を受け、
俺はその隙を見逃さず、
走り込んだ勢いを乗せ、
短剣で胸のあたりを………刺した。
グサッっと不快な音がし、俺の手は真っ赤に染まり、震えていた。
我に帰ると
何が起こっているのか、自分が何をしたのかわからなかった。
そんな俺をルカ姉が弱々しく俺を抱きしめた。
「……シン………ありがとね」
「…ッツ……ルカ………姉………俺……俺!」
そうして状況を理解したが、俺はただひたすら強く抱き返した。
「いいんだよ、シン。……………ゴメン……ね。………約束守ってくれて……ありがと」
今にも消えそうな声でルカ姉は言った。
「ックソ、なんでこうならなきゃいけないんだよ!なんで、なんでルカ姉が…」
目の前の現実に俺は子供のように叫んだ。
「泣かないで、こういう運命だったんたよ」
抱き締めながら優しく髪を撫でてくる。
「でも………こんな……」
「やっぱり優しいね…シンは。私ね…シンのそんなとこが好きだったよ」
そういうとルカ姉の体が光に包まれた
「待って、ル…」
「ありがとう。大好きだよ、シン」
そう聞こえた時ルカ姉は消えていた。
「ルカ姉ーー!!!!」
広い訓練場の中で自分の声が、ただ虚しく響いていた。
[5]
戻る
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録