終電車にて

『ドア閉まりまーす。ご注意下さい』


今日もまた1日が終わった。

聞き慣れたメロディーと、このアナウンスを聞くたびにそう思う。

現在午前0時過ぎ

終電の一番端の車両では,自分以外の客が誰もいないと言うなんとも稀な状況。

子供なら寝転びそうな状況だが、流石にそんなことをやる歳ではないし、そもそもそんな気力はない。

ラッシュ時では至高のポジションである端っこの席で優雅に寝ようとしていた時だった。

ドアが閉まる直前、ドタドタと誰かが駆け込んで来る。

まぁ終電だし、急ぐのはわかるが・・・

(さすがに俺一人だけみたいにはいかないか・・・)

そんなことを考えていると、話の当人が俺の隣に座る。

こんなスカスカな状態でわざわざ俺の隣に座るとは……

物好きな人だなと思いつつ、右目を小さく開くと、

丸まった角に、柔らかそうな毛に包まれた可愛らしい顔が視界に入ってくる。

思わず見とれていると、こちらの視線に気づいたらしくニコッと微笑んでくる。

ドキッとしながらも、思わず目をそらし、再び目を閉じる。

(うわっ、すごく可愛い〜)

そんなことを考えながら、高まった鼓動を落ち着かせていると

3分後、肩に重みが…そして「すぅーすぅー」と 可愛らしい寝息も・・・

そっと目を開くと予想通り、彼女の寝顔があった。しかも偶然か、俺の腕を抱き締めながら寝ている。

一瞬、腕を剥がそうか迷ったが、周りには自分たち以外乗客がいないので放っておくこと
にした。なによりこの幸せそうな寝顔を崩したくなかったのだ。

・・・・・決して俺の腕に彼女の胸に当たっているからとかそういうやましい理由ではない。
断じて違う

しっかし、そんな彼女を見ていると俺のほうまで眠くなってくる。

残業だったし、疲れてるのかな。などと考えているうちに、俺の意識はゆっくりとまどろみの中へ落ちていき・・・・・




〜〜〜〜


「・・・さん・・・ゃくさん・・・お客さ ん・・・」

「・・・・うーん」

肩を叩かれ、目が覚める。顔を上げると駅員の人が安堵した様子で

「お客さん、終点ですよ〜」

言われて慌てて立ち上がろうとすると足に、というか太ももに違和感を感じる。

視線を下に向けると彼 女の頭が俺の太ももに乗っている。いわゆる膝枕状態だ。

「なっ・・・・!!」

思わず心の叫びが口に出てしまう。というか状況を理解できずに、思考がフリーズしている。

「彼女さんとイチャイチャするのはいいけど場所くらいは選んでくださいね」

「いえっ、その・・・・・」

『別にそういう関係じゃ・・・・』などと言い返しそうになるが

場所を考えると、変な誤解を生んで、面倒なことになりかねない

「・・・・スミマセンでした。」

短く謝罪し、ヤレヤレといった様子で去っていく駅員を見送った

さて、

視線を下に向け、現実と向き合う

しかし本当に可愛らしい寝顔だ。なにより幸せそうで、見てるこっちまで幸せな気持ちになってくる

ついつい見とれてしまうが、こんなことをしている場合ではない

とりあえずゆっくりと肩を揺すると、やがて彼女が目を覚ました。

「んーー、おはようございますー」

眠そうに眼を擦りながら、のんびり挨拶をしてくる

「はい、おはようございます」

とりあえず、返事を返す

「それでー、貴方はどなた?」

そんなこんなで、とりあえず電車を降りて、簡単に事情を説明すると

「そうですかー、それはすみませんでしたー」

未だに眼を擦りながら頭を下げる彼女

「気にしないで下さい。自分も寝てたし、別に迷惑って訳でもなかったんで」

むしろ、嬉し・・・などと本音を言えるわけもないので、とりあえず適当に返す

「でも、これからは気を付けてくださいね。電車っていろんな人が使っていますから。関わると面倒な人とかいますし・・・。」

そう言って、その場を去ろうとすると、

「ま、待ってくださーい」

不意に呼び止められる

「貴方のお名前は?」

「俺は佐藤拓斗っていいます」

「私はー椎奈まひるです。拓斗さん、今度お礼をさせてください」

おそらく、お詫びと言いたいのだろうが、あえてそこには触れないことにしよう

「別にいいですよ、気にしないでください」

軽く頭を下げ、そういえば、初対面なのに名前で呼ばれてたな

そんなことを考えながら再び帰路についた



〜一週間後〜

「ああーもう、かったりぃ・・・」

ぼそりとつぶやきながら、一人電車を待つ。

上司の無茶ブリにより残業を余儀なくされ、ようやく解放された現状

朝も会議やらで、疲労はピークに達していた

電車に乗ると先週と同様にほぼ貸切状態の中で端っこに座り、目を閉じていると

いつも通りのメロディーと、アナウ
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