目が覚めると視界には白い天井
薬品の独特な臭いが鼻に付く
そうして自分が今病院にいることを理解した
ふと左腕を天井にかざしてみる
―――生きてる
左手首に刻まれている何本もの線の跡
死のうとしたはずなのに
こんな世界はもう沢山だ
そう感じていたはずなのに
今、自分はここに生きている
その事実に何故かホッとした
〜〜〜
小さい頃のことはよく覚えていない
パパは顔を見たことすらない
ママは確かにいたはずだけど
微かに覚えているのは眠くなったおぼろげな意識の中、母親が知らない男の人と去ってゆく後ろ姿だけ
私は一人いわゆる裏の世界で育った
毎日がただただ生きるのに必死だった
盗み、薬・・・・犯罪行為は日常茶飯事
光のない影の世界・・・・毎日が死と隣り合わせの暗く寂しいところ
そんな毎日の中16になった夏のある日、彼に出会った
彼は少し変な人だったけど優しかった気がする
乱暴で不器用で嫉妬深くて
それでも彼に抱かれると愛されてると思えた
なにより一人じゃないと感じられるのが嬉しかった
・・・・・でも
日が経つにつれ彼は私から離れていく気がした
だから私は彼に嘘をついた
子供ができたかもしれないって・・・・
そうすればまた私を見てくれる・・・そう思っていた
けれど私がそのこと話すと彼は・・・私の前から姿を消した
―――バカみたい
また一人ぼっち
笑えるでしょ?
私は何をして来たんだろう?
何のために生きてたんだろう?
何故生まれて来たのだろう?
わからない・・・・
私がバカだから?
私が悪い子だから?
私が生きることは間違いなの?
・・・・・・・ホント、バカみたい
〜〜〜〜〜
病院で目を覚ましてから2日後私は病院を抜け出し隣接している森に入った
目に見えるのは殺風景な部屋と見下したような目
耳に入るのは耳障りな会話や嘲笑
病院は居心地が悪かった
重い体をなんとか動かし森の中をさ迷った
でも私はどうするんだろう
何がしたいんだろう
何も浮かばない
そうしているうちに体力も無くなってきた
――寒い
――疲れた
――もう歩けない
とうとう地面に倒れこんでしまった
意識が薄れていく中、何かが聞こえる・・・・
「グルルルゥ・・・」
声が・・・・・獣の声がする・・・
虚ろな視界には犬・・・・いや狼だろうか
獣の群れがこっちにくるのがわかった
――痛い
腕に噛まれたような痛み
足には裂かれるような痛み
ああ私は死ぬんだな
意識が朦朧とする中、私は「死」を感じ・・・・目を閉じた
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
――――――熱イ
なんだろう・・・・
――――――傷ガ
私はまだ・・・・
――――――疼ク
生きている?
「・・・・・起きた?」
声がする・・・・なぜだろう・・体が軽い・・・・・
体を起こすと先ほど私を殺したと思われる獣が立っていた
寝起きのぼんやりとした目では人に見える
けれど視界が良くなるにつれ、目の前の人は普通でないことがよくわかる
耳が頭の先についており、手足には髪と同じ色の気が獣のように生え、鋭い爪が印象的だった
「フフッ、綺麗な毛並み・・・体はもう大丈夫そうね」
何を言っているんだ?
私はたしか・・・足や腕に傷を・・・・
そういって体を見回すが、傷どころか傷跡さえ見当たらない
その代わりに私の体は変わっていた・・・
目の前の魔物のような毛並み、そして尾や鋭い爪がある
そうしてようやく理解した
「私は・・・・魔物に・・・・」
「そう・・・・貴女は私たちと同じワーウルフの仲間よ」
「・・・・・ワー・・・・ウルフ」
どうやら私はワーウルフという種族になったらしい
しかし、種族なんてことより、もっと気になる言葉耳に残った
「・・・・・仲間?」
「ええ仲間よ。正確には群れといった方が正しいかしら?」
私の発言は予想外だったらしく、彼女は少し考えこんでいる様子
「でも細かいことはいいわ、まぁ家族みたいなものよ」
「家族・・・・・・」
――――――家族
その単語は私にはとても遠くて、まぶしかったはずの物
「さて、私はマリー。貴女の名前は?」
「・・・・ミリア・・・」
「それじゃミリア今日からよろしくね」
そういって抱きしめられた
その瞬間、私の中の様々な感情が
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