―暇だな。
誰に言うのでもなく、唐突に、そう呟いた。
この独り言を誰かに聞かせるためでも無く、かといって誰かが聞いている訳でもなく、
ただ、呟いた。
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私は人里に下りては悪戯をするのが好きだった。
女子たちの帯を解いたり、店の物を死ぬ時まで借りたり、夜に男の枕元に現れて枕をひっくり返したり。
そしてシメは、人間たちとの追いかけっこ。あの捕まったら殺されそうなギリギリ感が大好きだった。
そんな中でも私に優しくしてくれた人たちも居て…特に子供たちには人気者だったのだぞ?
それが私の日課であり、隠居した私の唯一の楽しみだったのだ。
今では、もうずいぶん昔の話になる。
……人間も、魔物も、変わってしまったのだ。私だけを残して。
今の人里にはもう私の求める楽しみも無いし、欠かさず行った日常をすることも出来やしない。
皆…………性交に勤しんでおるからだ。
突如魔物たちが、皆一斉に助兵衛になってしまったからである。
予兆もなく、突然にだ。
そしてそのまま人間の男どもに襲いかかり・・・ギシギシアンアン。というわけだ。
言ってしまえば、年中無休の発情期。
そして面倒なことに、一部の魔物たちは女子にも襲い掛かった。
襲われた女子たちはその襲われた魔物と同属に変わり、魔物同様男どもに襲い掛かるようになった。
男は襲われ、女は魔物に変わって男を襲い・・・・・魔物ばかりが増えていく。
この辺り一帯を治めていた豪族も、寺に住まう坊主も、人間を嫌う魔物も、皆男と交わる事に勤しんでいるのだ。
後に、この原因が魔王の世代交代だという事を知り合いから教えてもらった。
―新しい魔王が即位した。面白いぞ?今度の魔王は夢魔だ。
なんでも、今の魔王が夢魔であるからしてそれに応じて魔物たちの姿が女子の体つきをするようになって
男を襲い始めたというわけだ。
断っておくが、私は元より雌だ。
狐や狸など人に化ける者は元より人型になれるが
蛇、猫、犬、鳥、天狗に河童、果ては蟲や意思のある草花までもが女子と同じ体を持つようになった。
さらには元々雄である魔物たちが雌化するという現象まで出始めた。
さすがの私も頭を悩ませた。これでは代々受け継いできた血が薄れてしまう。
それだけはどうにかして避けたい。
この事をどう捕らえているのかを確かめるためにこの町に住まう子孫の様子を見に行った。
―久々だな。我が家に帰ることになるとは。
・・・・・駄目だった。既に手遅れだった。
境内に入るなり、嬌声が聞こえてきたのだ。
「ん・・・はぁぁ・・・!いいぞっ・・・!お前がっ・・・絡み付いてっ・・・・!」
「あはぁぁ・・・♪もっとぉ・・・・♪もっとぉ!♪わたしのナカにきてくだしゃいぃぃぃぃぃぃぃ♪」
人間の男と私の子孫であろう稲荷が、四肢を絡ませ子作りに勤しんでる。
どうやら早くも人間の血を取り入れることに決めたらしい。
―嘆かわしいものだ…今まで守ってきた血をこうもあっさりと捨ててしまうとは……
…これ以上居ても、頭がおかしくなるだけなので早々に立ち去り今住んでいる場所に戻った。
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住処から少し歩き、開けた場所に出る。
下には私が昔、日課を行っていた町が見える。
鳥のさえずりが今では男と女のさえずる声しか聞こえない。
今でも、嬌声が止むことは無い。
ろくに食べることもせず、働くことも忘れ、色欲狂いの魔物たちと交わり続ける毎日。
それが、今の町の日常なのだ。
―私も、気を緩めればああなってしまうのだろうか。
今のところ、色欲に溺れるというようなことは無い。
しかし、この身体に纏わり付く甘ったるい気……新しい魔王の気の流れなのだろうか。
この魔王の気はどうも身体を疼かせる。恐らく、取り入れたら最後。私のような空狐や天狐でもなければ
その気に呑まれ色欲のまま異性を求めてしまうようになる。
―そんな世界……私は認めたくは、ない。
人間と魔物たちが仲を良くすることはとても嬉しい。私も望んでいたことだ。
だが今のこの状態は仲が良いとは思わない。
今の状況は、魔物側による一方的な侵略といったほうが良いだろう。
弱き人間を魅了し色欲を溢れさせ互いに交わりあう。
心を無視して…………
いや…………魔物側も、被害者か。
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