第十話 夢の中

夢を見ていた。
薄暗い地底湖の様な所でプカプカ浮かび、たまに何処からとも無く来るラッコやお魚と泳いで過ごす。
二ミュがこういうのは白昼夢・・・あれ?明晰夢だっけ?とにかくそう言うのだって言っていた。
陸地を旅してたはずだしスコッドもニミュもいないし夢に違いない。

暇だなーとか思いながら遊んでいたっけあることに気づいた。
指で四角い枠を描けば窓が現れて、それを開くと自分自身でも覚えていたかどうか分からない過去のことが覗き込めるんだよ。
すでに何回かやってみて、今回はこの前のドラゴンとの水中戦だった。

水中にドラゴンを引きずり下ろしていつもの眼でどんな相手か確認。
私にはそのドラゴンが『被虐』の文字をニミュ以上に浮かび上がっているのを見て思わず吹きかけた。
だって、4人がかりで攻撃してもなんともない王者の本性がドMなのだから。

私の泳ぐスピードは宙を舞うハーピーよりも、いや・・・短距離ならワーバーンの速度より速いと自負している。
だから速攻で決着をつけようと思った、相手が見ずに慣れていない内に、こっちが相手の硬さに根負けしない内に。
相手を縛り付けている鎖を壊さないように突撃からの銛の腹で連続殴打にお母さん直伝の衝撃を好きな所に放てるパンチ。
ダメージは通ってくれる、けど何度殴っても一つの感情は変わらなかった、怖い。
相手はクジラでも無い、トドでもない、魔界の巨大魚でも鳥でもない。
人のサイズになっているドラゴン・・・その何もしていないのに発せられる威圧感は私の野生を削り続ける。
今直ぐ陸に上がってスコッドとニミュに抱きしめてほしい、逃げたい。
・・・だからこそ向かった、スコッドが頼むと言ったから。
無理はするなと言った、でも・・・挑んでみたい。
水に入った陸の王者にただの水中狩猟種族がどこまで刃向かえるのか!
その事を心が理解した時私は笑っていた。


次の瞬間、ニミュの鎖が砕けフレイの両腕と翼が開放される。
もう時間がない、腕や翼を動かし水中でどう動けばいいのかとんでもない早さで理解しようとしている。
あと数分もあれば泳ぎなれた人間程度に動かれてしまう!

そして結果から言えば懇親の腹パン叩き込んだら腕を掴まれてまさかの水中ジャイアントスイングからの掌底でKOされた。
ドラゴンは強かった、けどあと数人セルキーが居れば多分気絶まではもっていけたと思う。


そこでその窓を閉じ、次の窓を開く。

幼い私とボールで遊んでくれているお母さん。
まだ大人のアザラシの毛皮を着れないから魔力で編まれたふかふかの子供アザラシの毛皮風の服を着ている。
流氷が集まって大きな島みたいになっている所が家だったから地面はふかふかの雪が敷き詰められていて転んでも幼い私はきゃっきゃと笑っていた。
そんな私をお母さんとお父さんは優しく見守ってくれていた。
この頃にはお母さん達が私の本当のお母さんじゃないこととかそれとなく教えてもらっていたし(理解していたかは別)、ママやパパからの手紙は毎週来て返事とかも書いていた。
友達のセルキーや他の魔物娘達とも仲良くなっていたし、この数年後では私の突きが一番獲物に深く突き刺さって仕留めることもできていた。

そしてお母さんたちが猟に行っている時、私は空から降ってきたそれを食べた。
黒い玉。
しばらくすると見た人の周りに文字が浮かんでいるのがわかった。
幼いながらにそれが何なのか魔物娘だから理解できた。
でも使い道がわからないから誰にも言わないでいた。

そして同じ頃から自分の体に変化が起こり始めていた。
毛皮を着ているのに肌寒いのだ。
お母さんにお願いして上着とか中に着る服を作ってもらってそれを着ると落ち着いた。
毛皮自体にはみっちりと魔力が染み込んでいて他のセルキー達が着ても寒さを感じることはなかった、お医者さんに診てもらうと私自身の常に放出されるべき魔力が普通の魔物娘より薄いと言われた。
常に放出される魔力のお陰で魔物娘はその爪や牙で愛する人を傷つけなくて済むし外からの変化にも強くなる。
それが薄い所為で素肌を晒している所が寒く感じているということらしい。

その時の私は思った、なら暖かい所に行けばいいんじゃない?と。
今思えば毛皮を着ればなんともないんだし、セルキーは毛皮を脱げば暖かいところだろうと心の寒さは感じるから意味が無いんだけど・・・、とにかくそう思った私は旅に出ることにした。
丁度いいからママたちに会いたいとお母さんに伝えて。
お母さんとお父さんは旅をするための知識と能力を私に教えてくれた。
本当はもっと大きくなってから教えてもらう事を教えてもらった。
そして暫く泳いで、旅をして、スコッドと出会った。
この人が私の愛すべき人だと本能が言った。
でも、私は南に向かっている。
だから旅人じゃない人と一緒
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