第七話 塩田町・ソルド

スコッド達がキャラバンに乗せてもらうことになってから数日後、キャラバンの周囲で数人がランニングをしていた。
魔物娘も居れば男たちもいる、その中でも特に目立つのが2mを超す巨体のアルだった。
その巨躯からは想像できないほど軽やかな走りは他の者も思わず付いて行きそうな雰囲気を醸し出していた。

そんな彼がふと視界に入った人物の元へ駆け寄る。

「調子はどうだ?」

「どうもこうも無いな・・・慣れんと使いづらい」

男としては平均的な身長、軽く逆だった髪に深緑色のバンダナを額に巻いている。
アルの友人、弓兵のスコッドだ。
彼が向いていた方を見ると数本の矢が突き刺さった的が30m程先に立っている、どの矢もほぼど真ん中に刺さっていて弓の腕は落ちていない様だとアルは心の中で喜んだ。
だからこそスコッドが言った使いづらいと言うのが分からなかった。

「どうしてだ?近距離とは言えしっかり当たってるじゃないか」

「普通の矢はな、問題はこっちだ」

そう言うとスコッドの掌から蒼と黒が混じったような色をした魔力の球体が浮かび上がり、それを弓につがえると球体は棒状に変化した。
それを的に放つ。
魔力の矢は的の中央に命中し、ペンキをぶちまけたように的全体に魔力がドロドロとした液状に広がっていく。
だからこそ、しっかりあたっているではないかという視線をスコッドに向けるアル。

「今のは二矢目だ、普通の矢と違って落ちるってことがないから感覚が違うんだよ。それに落ちてこない、長距離放つと途中で消滅するなんざ俺の戦法に合わん」

そう言いながらも三、四、五と次々に魔力の矢で的を射抜いていくスコッド。
スコッドの戦い方としては弓兵でありながら相手の懐に潜り込んだり落下させた矢などで相手の意識外から攻撃するのが主流だ、それから考えれば空に打ち上げて落下しないとか弧を描いて落ちてこない矢というのは使いにくいのかもしれない。

「まぁあれだ、魔力の込め方次第でそこら辺は変えていけるかもしれないからな、練習あるのみと言うことだ。」

「そうか・・・頑張ってくれ」

「あぁ、せっかくお前が用意してくれた力だ、ありがたく使わせてもらうよ」

手をひらひらと振り、男たちはそれぞれの妻の元へ戻ることにした。






みきゅ〜、みきゅ〜。
スコッドが弓の慣らし、ニミュがキャラバンの人の手伝いをしていた頃、ティナは眠っていた。
というよりも此処数日ろくに動いていない、眠るか転がるかごはんを食べるかペチンペチンと音を鳴らしながら這っているか。
ちなみにスコッド達が居るのはこの前宿泊したあの小屋だ。

何しろ歩かなくていいのだ、ご飯の手伝いとかはするがキャラバンが移動している時なんて部屋でゴロゴロしている位しかやることが無い。
スコッドやニミュは魔界豚の移動が人間の駆け足より少し速い位なので魔界豚と並走してランニングしたりしているが水陸両用生物にはそんな事はしたくない。
もちろんお日様に照らされながらの散歩は気持いい、だがそれより寝転んで浴びるお日様のほうがぽかぽかしてうとうとできるのだ。

だから動かない。
セックスしていれば運動自体はしっかりできてるだろうしと思ってたり。

「まーたお前は寝てるのか」

「むぅいー・・・」

ふと声が聞こえたので見てみればスコッドが帰ってきていた。
ゴロゴロと丸めた絨毯を転がすように転がってスコッドの足元に近づき擦り寄るティナ。
最早野生生物系の魔物娘にあるまじき堕落っぷりである。
これならまだアントアラクネの方が動いているかもしれん。
外に連れ出そうとスコッドがティナを持ち上げる、その時スコッドに電撃が走った。

「・・・おい」

「むきゅぅ、なんだよぉ」

「ティナ、お前太ったか?」

何かの思い違いだと思ったスコッドは一度ティナを下ろしてもう一度抱える。
気のせいではなかった、重くなっている!
予想で数キロといった所だろうか、確実に重くなっている。

「むっ!失礼なことを言うなよー!見よこのスラっとした身体を・・・・お?」

流石に太ったと言われては寝ぼけた意識もハッキリしてくるというものだ、ティナは自分の身体を見せるために伸ばしていた下半身の毛皮を戻し上着をめくってお腹を見せる。
ついでに自分でお腹を触る・・・・・・すると、つまむことが出来た。
ぷにょんとなんとも触り心地良さそうなお肉が。

「・・・」

「・・・」

「次の街でキャラバン降りるぞ」

「う、運動することにするんだよ」

その後、ニミュとも話し合ったがティナのぽにぽにボディ解消のため自堕落な生活が出来るキャラバンから次の街で降りることにした。
たかが数日でこれなのだ、もしも一ヶ月とかの長期間で居続けたらセルキーではなくオーク体型になってしまいかねない。




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