僕、三原 裕弥(みはら ゆうや)は用事で峠越えのルートをドライブ中。この峠を越えれば、目的地の街に着く。ところが、そこで力が抜けたのか急に睡魔に襲われた。ヘビーウェットで視界も悪く、ここで無理して事故っては洒落にならない。仕方ないので、偶々見つけた神社の駐車場に入って昼寝することにした。戦略的撤退だ。
思えばこの戦略的撤退が、僕の運命の分かれ道だったのかも知れない。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
目が覚めた。
時計を見ると、もう2時間経っていた。
じーっ。
「うわぁっ!!」
まったく、ぶったまげたなぁ。
目が覚めると、そこには銀髪の巫女さんがいた。しかもこっちをずーっと見つめている。
「よく眠れましたか?」
彼女が優しい笑顔で、そう話しかけてくる。
さっきまで降り続いた雨で気温が下がったお陰で、6月も後半だというのに涼しくよく眠れた。
「良かったら、お参りしていきません?」
まぁ、せっかくなので行ってみることにした。
その最中で彼女は手水屋の作法、真ん中を歩いてはいけない、等々いろいろと教えてくれた。
PM3:08
「良かったら、お茶していきません?」
「いやぁ、悪いよ。」
「遠慮なさらずに♪」
そう言うと僕は社務所に通された。
しばらくすると彼女は、二人分の緑茶とようかんを持ってきた。
「んぅ〜やっぱりおいしいですぅ〜♪」
どうやら、彼女はこのようかんがお気に入りのようだ。
「こんないいもの頂いちゃって、本当にいいの?」
「えぇ♪一人は寂しいですから。」
そこでお言葉に甘え、僕もようかんを口に入れた。
「お、これ結構いい奴じゃないの?」
「そこまでじゃないですけどね。」
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「あ、ようかんもお茶もお代わりありますよ。」
「別にそこまで」
「遠慮なさらずに♪」
お茶菓子のお陰か、この白神 永江(しらかみ ながえ)さんとの話も弾んでいった。
そしていつしか、話題は僕の仕事へと移っていった。
ところが・・・僕は就活に失敗してまだバイトの身分。しかも・・・
「あぁ・・・僕、クビになったんです。一つのことしかできないんで。」
「え! 申し訳ございません!! これはとんだ失礼を!!」
「いえ、僕が悪いんです。僕がダメな子だから・・・。」
心配そうな顔で僕を見つめる永江さん。
「ほんと、気にしなくていいですから。」
「・・・では、生活にお困りなんでしょうね。」
「実家にいるからそうでもないけど、やっぱり・・・ね。」
「でも裕弥さん、お仕事の話になってから何だか辛そうです。何かあったんじゃないんですか?」
「だからさ、自分の力b」
「いいえ、それとは違う、何かを感じます。嫌なことが、慢性的にあったんじゃないんですか!?」
永江さんは僕の肩に手を掛け、思いっ切り顔を近づけてきた。
その表情は柔らかはそのままに、しかししっかりとしていた。
「先生怒らないから、正直に言いなさい?」と言うセリフが似合いそうな表情で。
もう、隠し通すことは出来なかった。
「・・・実は・・・」
その職場では、サービス残業が常態化していた。帰りが1時間遅くなるのは当たり前。しかも1時間近く掛かる開閉店作業にも給料は支払われない事になっていた。
そして手当はほとんど無し。これが正社員ならまだしも、バイトでこの有様である。
人間関係の良さと楽しい職場の雰囲気で何とか続いてはいたものの、マルチタスクが苦手だったことに加えて福利厚生のふの字もないサビ残地獄に疲れ果てていたのは事実である。
「・・・許せません。」
「え?」
「労働者に還元するどころか搾取するなんて・・・その社長、許せません!! 本社の住所はどこですか!?」
「永江さん、ストップ、ストーップっ!!」
・・・何とか永江さんをなだめ、その場は落ち着きを取り戻した。
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「その話、私も経営者として許せません。」
そこに割って入ってくる刑部狸の惠子さん。永江さんとは顔なじみで、大型家具店を経営しているそうだ。
「でしょう、惠子さん?」
「ごめんね、話に割って入っちゃって。ところで裕弥くんだったっけ? 失礼なこと聞くけど、時給はいくらだったの?」
「700。」
「え!?最賃ギリギリじゃない!! ますます許せないわ!! そんな働き方してたら、遠からず潰れちゃうわよ?」
「でも実際みんなはそれに耐えて」
「裕弥さん。もう、働かないでください。」
「え!?」
「だってあまりにも働かせ方に問題がありますよ! 裕弥さんは、とっても真面目で優しい方です。本来ならそう言う方が報われるべきなのですが、現実はまったくもって真逆です。そ
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