俺の名前は永田 孝司(ながた たかつぐ)。
大学進学で、この春から幸川県高山市に住むことになった。
聞くところ、この街はまさに親魔物領というべき場所らしい。が、気にしていない。同じ人間同士でさえ国籍が違えば感覚が全然違うのだ。その延長線上で考えればいい。
さて、この話は大学合格が決まり部屋と家具を探していた頃に遡る。
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その日、亡き叔父が遺したボロキャリイに乗って部屋を下見に来ていた。
なんだかんだ言っても幸川も「マイカー県」。クルマがなければ買い物にも行けないのだ。みんなバカにするけど軽トラは乗ると結構楽しいし、軽乗用よりも安い税金も金欠学生には嬉しい。親しい先輩と遊ぶにも、そしてこれから控える引っ越しにも便利だ。何せ車検がまだ1年半近くも残っているので、このまま乗ることにした。オーディオレス(ラジオすらない!!)はきついけど・・・まぁ、エアコンがあるだけ幸せと思うことにしよう。
買ったばかりの安いポータブルナビを頼りに高山市内を彷徨っていると、どこかのデパートか!?というような大型の家具専門店を見つけた。
『家具と生活雑貨のデパート たぬぽん』
建物の立派さに反して、何とも気の抜けた名前だ。
面白そうだと、寄ってみることにした。
そして、店内散策。
どうもここは高級家具が中心のようだ。
カッコいいけど、ウン十万という値段。俺には縁がなさそうだった。
そのベッドコーナーには、妙なキャッチコピーが並んでいた。
「人生の1/3は睡眠時間。眠りを制する者は昼も制する。」
「夏涼しく、冬暖か。睡眠は健康に重要です。」
「快眠のためのテクノロジー。最適な姿勢を保ちます。」
まぁ、こういうのはベッドなら普通だ。だが・・・
「ケアレス航空にも壊せない!!ピアノが落ちても壊れないベッド!!」
・・・モーリスマリーナオーナーズクラブが見たらどう思うやら。
「ブリティッシュベッドは耐荷重2t、セルシオを乗せても大丈夫です。」
・・・んなモンをベッドに乗せる奴がいるとは思えんが。
「やっぱりイナダ!!100人乗ってもだいじょ〜V!!!」
・・・物置か!!! なんか色々アウトなんですけどwwwww
・・・どれもこれもやたらと耐久性をアピールしている。
そもそもそんな代物があり得るのか!?という疑問もあるが、それ以前になぜこんなキャッチコピーを使うかの方が不思議でならなかった。
だってこの3つからして、ベッドにはあり得ないシチュエーションなんだから。
地震の際の逃げ場所かとも思ったが、形状からしてそうとは思えない。
「にしても、寝心地の良さそうなマットレスだよなぁ。」
そう言いながらベッドを見ていると、モノを運んでいるスタッフに突き飛ばされた。
俺自身はベッドに飛び込む形になったのでケガはなかったのだが・・・
「申し訳ありません!! お怪我はありませんか!?」
「俺は大丈夫だけど・・・」
どうやらコーラのペットボトルが、何かの弾みで開いてしまったようだ。
マットレスにはもう隠しようのない茶色い染みができてしまった。
タオルでとりあえず液を吸えるだけ吸い取り、トイレの洗面台で流した。
そして問題の現場に戻ってくると、別の女性スタッフがいた。
耳と尻尾からして、刑部狸だろうか。
高めの身長にすらっとした脚。漆黒のスーツとタイトスカート、そしてぱつぱつのブラウスで強調されたボディラインがあまりにもエロい。
化粧もきつくなく、素材の良さを活かしきっているという感じだった。
「保谷から配送チームに通達です。2階のベッド、商品コード2-1X-007を第2会議室に運んでください。どうぞ。」
「2-1X-007を第2会議室にですね、了解しました。どうぞ。」
うわ、声もエロいよ。
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「このたびは他のスタッフが失礼をしてしまい、誠に申し訳ありませんでした。」
「俺はケガもなかったし、中のデジカメもビデオカメラも無事だ。スマホ(コーラと共にバッグから飛び出し、思いっきりコーラを浴びた)は防水仕様だから問題ないし。問題は・・・」
「お客様・・・誠に申し上げにくいのですが・・・こちらの商品、お買い上げ頂きます。」
「は?」
「20万円になります。県内配送・設置料は無料でございます。」
「に、20万・・・無理だし!!そもそもこれはお宅のスタッフがぶつかった弾みで!!」
「こちらは耐久性抜群ですから、一生ご使用になれますよ。それに他のお客様からも、よく眠れると評判なんです。お身体のために、ぜひ寝具と椅子はいいモノを。」
「えーと、分割払いは・・・(このベッドがいいモノだというのはわかっていたが、さすがに20万をいきなり出せと言われても無理だ、と言うこと
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