魔物娘とブラックデー。

4月14日の仕事帰り。
「リア充死ね〜リア充死ね〜爆〜発しろ〜♪
別〜の人種〜そ〜でしょ〜 そ〜に決〜ま〜ってる〜♪」
あの有名なボカロ曲を聴きながら、僕は食料品の買い出しにリビング・ライフ高山第一団地店に向かっていた。

バレンタインデー? ホワイトデー?? そんなの無縁だよバーカ・・・

・・・

・・・1月、雪がチラつくある日だった。
僕はたまたま近しくなった女を駅まで乗せていこうと思ったのだが・・・

「えー、何これー。2人しか乗れないし荷物も乗らないじゃーん。」
「うっわ、狭いし低いし何これ。こんなのに乗るなんてあんた正気なの!?」

・・・僕が乗っているのは初代のロードスターだ。
別にアウトドアに興味はないし、まして女ウケをよくしようなんて考えたこともなかった。無理せず維持できて、なにより自分が乗って楽しいこと。それを最優先にした選択だった。
・・・確かに指摘は正しいが、狂気扱いされてかなりムッと来た。

・・・僕は、いつかはランエボに乗りたいと思っていた。
とはいえ今となっては高級車のそれになってしまった価格の高さ、そして生産終了から新車で乗るのは完全に叶わぬ夢となってしまった。だからカタログを貰ってきてせめて夢だけでも・・・

「こんなのに乗りたいって思うわけー? あんたサイッテー!!」

・・・その瞬間、ぷつんっ、と何かが途切れる音がした。

「降りろ。こいつが2シーターなのは、お前のような礼儀知らずのクソ女を乗せないためだ。」
「ちょっとー、何ムキになってんのよー。」
「そんなにでかくて広いのがいいんなら、アルファードかエルグランドにでも乗ってる奴を逆ナンすればいいだろう。金輪際、どんなに頼まれてもお前は乗せない。」

その女は、とうとう逆ギレして出ていった。
「アンタみたいなダサ男、どーせ一生独り身なんだから!!」
「ダサいと思うならそれで結構。俺はお前のために生きてるんじゃない。」

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・美女とつきあいたい、SEXしたい。
「美女」の基準はともかくとして、世のほとんどの男はこの欲望を持っているはずだ。
当然、僕も持っている。

しかしながら、それは叶わぬ夢。
そう言う事実を思い知らされた。
「この国ではスポーツカーは女ウケが悪い」という話は聞いていたが、いざこうなるとクるものがある。

=========================

いつものようにカートを取り、食品フロアに入ったときだった。
総菜コーナーに何かPOPが出ている。

「幸せなカップルが、生まれますように・・・。4月14日はチャジャンミョンを食べよう!!

韓国には『ブラックデー』と言う日があります。これは、恋人のいない男女が4/14にチャジャンミョンをはじめとする黒いものを飲食する日です。
当社では『ブラックデー』を出会いの契機として考え、新たな幸せカップルが生まれることを祈願して縁結びで有名な相成妖狐神宮(あいなり ようこじんぐう)にて願掛けした麺を使用したチャジャンミョンを販売しております。

・・・とは言いましたが、味には自信がありますので恋人の有無にかかわらず皆さんに味わって頂きたいと思っているのが私たちの本音です。勿論素材は当社の安全基準を満たしたもののみを使用しております。是非ご賞味ください!」

・・・ブラックデー、か。
まさにおあつらえ向きな記念日じゃないか。
そのときの僕は、やはりヤケになっていたのだろう。
総菜によくあるパックに入ったチャジャンミョンなるモノを手に取った。

=========================

駐車場に戻ったその時であった。
「えー!!! こんなのどーすればいーのー!!!」

見てみると、そこには車高が妙に不揃いなラパンがいた。

「どうしました?」
どうやら、パンクしているようだ。
おまけにバッテリーが上がり、更にケータイのバッテリーも切れていたためロードサービスを呼ぶこともできない。
ちょっとクルマを「触ってる」人ならトラブルとは言わない程度の案件だが、どうやらご婦人の方々には絶望的状況に映るようだ。

「ちょっと後ろ失礼しますね。」
実家のクルマがスピアーノ(※)だったと言うこともあってジャッキポイントもわかっていたし、ブースターケーブルも常備していた。最悪、牽引ロープだってある。
そして20分もせずに事態は収拾。僕は、そのまま工具を片づけて撤収しようとしたのだが・・・
(※ラパンのいわゆるOEM車種。早い話が「マツダのエンブレム付けたラパン」である。)

「どうも、ありがとうございます! お礼をしたいので、是非うちに来ては頂けませんか?」

まさかのお誘いだった。

まぁ、この程度ならせいぜいケーキを出されるくらいだろう。
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4]
[7]TOP
[0]投票 [*]感想
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33