ある日のことだ。
お昼のニュースのローカル枠に、皐月さんが映っていた。
「では続きまして、県内のニュースをお送りします。」
画面には『リビングマートとたぬぽん「ブラック企業許さない」』なんてテロップ。
「県内に37店舗のスーパーマーケットを展開する株式会社リビングマートは本日、悪質なテナントに強制閉店の制裁措置を下したと発表しました。リビングマートの発表によりますと、同社の商業施設『リブワイドモールRYUZAN』など2店舗に出店していた雑貨店『ディスカバリー・キャニオン』に対しサービス残業などの実態があるとして、『悪質な規約違反により誠に遺憾ながら強制閉店・一部財産没収という厳しい制裁措置を下す結果となった』としています。それでは、記者会見の映像をどうぞ。」
そして彼女はマスコミの前で、堂々とこう言ってのけたのだ。
「・・・我が社は、テナントの従業員も直営の従業員と同じくらい大切にします。そして従業員の為ならデベロッパーとしての権限を振りかざします。我が社は、ブラック企業の存在を決して許しません。それが地域に根ざしたスーパーとしての責務だと考えています。」
なお今後ディスカバリー・キャニオン跡地は高山市の家具店、有限会社たぬぽんの新形態店舗が入居する予定で、社長の保谷 惠子さんによりますと今回のリビングマートの行動に賛同して希望すればスタッフは全員引き継ぐ意向を示しているとのことです。
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ブラック企業。
そんな言葉が世に出てからもう久しい。
ある日、僕と皐月さんがは二人で出かけていた。
全国規模のスーパー、アイランドグループが運営する「アイランドモール」の店内をぶらついていた。まぁ、確かに敵情が気にならないわけではないが、あくまで純粋なお出かけである。
そしてモール内をぶらついていると、たまたま古い友人に出くわした。
「よぉ、凪じゃねーか。この綺麗なねーちゃんは!?」
「お、久しぶりだなぁ。あ、皐月さん。コイツは望月 宗一(もちづき そういち) 、僕の古い友人。・・・ってか宗一、何か顔色悪くねーか?」
「あぁ・・・いや、お前の女の前で話すことじゃねーよ。ちょっと残業続きで疲れてるだけだから。」
「へぇ、でも残業代とか」
「出ればいいんだけどなぁ・・・」
後から聞いた話だと宗一は中に入居している雑貨店でバイトしているという。
ところがだ。いざ入ってみるとその雑貨店はサビ残地獄だった。
開店準備で1時間。しかも金は出ないのに遅れると怒られる。
そして帰りも定時で帰れた試しがない。もちろん給与にカウントされない。
・・・月に30時間はサビ残してるというのも、あながちウソではなさそうだ。
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本当に、気の毒だ。
旧友がブラックで搾取されてるだなんて。
しかし、この話に強く食いついたのは意外にも皐月さんの方だった。
「宗一くん、だったわよね? ご飯奢るから、その話、詳しく聞かせてちょうだい。もちろん、キミがリークしたってことは誰にも言わないわ。」
そう言うと、モールを後にした。
そして、場所は変わって「和風処 なごみ」。
ちなみにこのお店、グループ企業のリブレスト・ディベロプメントが運営している。
当然後述するリビングマートの社風を受け継ぎ、従業員の表情もどこかゆったりとしている。
それに真っ先に気付いたのは、宗一だった。
「なんだか、そこそこ混んでるのにスタッフの表情に余裕がありますね。あ、一人、二人・・・フロアスタッフだけで12人もいるんですか!?」
「え? それくらいは必要でしょ!?」
「いらっしゃ・・・あ、皐月さん。こちらはお友達ですかね。お話の通り、奥部屋を用意してます。」
「ほんと、ここのスタッフはみんないい顔してます。表情がいい。来てすぐわかりましたよ。」
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「さて、本題だけど・・・それ、どこのお店の話なの!?」
リビングマートグループには、従業員をとにかく大切にする企業風土がある。それこそスタッフの人員には余裕を持たせるし、サービス残業などもってのほかである。そしてそれはテナントにも徹底させており、破った場合は厳しい罰則が科せられている。
そしてそれは、リビングマート以外にある系列他店で行われていた場合にも科せられるのだ。
「あ、ディスカヴァリー・キャニオンです。夜番の奴なんかは3時間残ることもザラにあるみたいですよ。」
「・・・何か嫌な予感するわね・・・ちなみに、時給はいくら?」
「690円ですね。日曜だろうと夜だろうとずーっとこれ。」
「えぇっ!? 幸川県の最低賃金って、先月発表された最新ので確か752円よ
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