峠のお茶屋 〜雪原に花を添えて〜

「はぁ!? 何ふざけたこと言ってるんだ!?」
僕、北原 昭博(きたはら あきひろ)はその言葉に耳を疑った。

親父がミスって、その火の粉がこっちに降りかかってきたのだ。
その内容は、なぜか
「水没したAE110カローラを修理して乗れ」
と言ったものだった。
それこそ100万どころの騒ぎではない高額賠償の可能性すらある為に、親父はそれを引き受けてしまった。
親父はカローラの部品取りなんて簡単に見つかると思っていたらしいのだが・・・

実は昨今、カローラを解体屋で見ることは滅多にない。
かつて販売台数No.1を誇っていたほどの車種が何故解体屋に流れないのか。
理由は簡単、エコカー補助金で大量虐殺されたところに中東を中心とした海外の貿易商が廃車や中古車をどんどん買い漁っているからだ。
実際、僕自身にも知り合いの貿易商から「あったら教えて」と言われるほどだ。

自分は3軒の解体屋と顔なじみだが、その全てが首を横に振った。
仕方ないので、とりあえずは県内中の解体屋とカローラ店、それから対象をスプリンターにも広げネッツ店にも片っ端から電話した。

結果?
予想どおり、1台も見つからなかった。
仕方ないのでメーカー関係なしに全てのディーラーを当たったものの、ダメだった。
個人経営の中古車店すらも、その全てが首を横に振った。

「残念だけど、修理開始が1年後になることも覚悟して。これが現実なんだ。」
中古車輸出の現状を知らなかった親父達は如何にも「ウッソだろー!?」と言う表情。
そりゃそうだ。自分だって、事情を知らなければそう言う反応をするだろう。

そして今日も解体屋に顔を出す。
今日もカローラはなかったが、210系のカリーナがヤードにあった。
もしかしたら・・・と思ってボンネットを開け、エンジン形式を確認したのだが・・・
「チッ、7Aかよー。5Aか4A-Gなら部品取りに使えたんだけどなぁ。」
・・・確かに110系カリブに7A搭載車はあるが、正直なところ公認車検が厄介な上に僕自身がMTしか乗れないので5A-FEエンジン+MTの組み合わせが欲しいところだった。
ミッションはともかく、水没となるとエンジンやコンピューターはなぁ・・・。

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そんなある日、見知らぬ番号から電話が掛かってきた。
恐る恐る電話に出てみると・・・

「私、徳原ネッツ神山店の石田と申します。昨日カリブの事故車が入りましたので、110系カローラの部品取りをお探しとお伺いしてお電話差し上げております。」
「えっと、神山店の石田さんですね!? 今すぐ現車確認に伺います!!」
僕はアシにしていたキャリイに慌てて飛び乗り、徳原県神山市に向かった。
探し求めていた部品取りが、やっと見つかった。

と、思ったのだが・・・

「北原様、誠に申し訳ございません!! お客様にお伺いしたところ、修理するとのお返事でございました!! 私の早合点で、貴重なお時間を無駄にさせてしまいました!! 足代は多少色を付けて弁償させて頂きますので、どうかお許し下さい・・・」
「はぁ・・・そうですか。まぁ、110系が入ったらスパシオだろうがレビ・トレだろうが連絡お願いします。」

現物を見たところ、ハッチゲートが大きく歪んでいた。
これでは早合点をしても無理はない。
別に事を荒げたいとは思っていないので、とりあえず足代だけ貰ってその場をあとにした。

「誠に申し訳ございませんでした・・・今後、優先的にお話をさせていただきます。」
「うぅん、もう謝らないでください。」

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「あぁー、もう疲れたぁー。」
頭は石田さんを許しても、疲れた身体はそう簡単に許してはくれない。
何せ、神山店までは片道150km以上もあるのだ。赤帽サンバーじゃあるまいし、軽トラで走るにはチト辛い。実際、ステアリングに伸びる腕も痺れてきた。
これは危ない。エコノミークラス症候群じゃあるめーな!?

「まぁ、一休みしていくか・・・」

峠にさしかかったところにあった、小さな喫茶店。
まだ道は60km以上ある。予定があるわけでもないし、ゆっくりティータイムってのも悪くない。

店内は薄暗く、電球の照明とふかふかの座席。
まさに80年代ぐらいの喫茶店と言った感じだった。

「いらっしゃいませー。」

奥から出てきたのは、30歳くらいの落ち着きのある女性。
全てを優しく包んでくれそうな雰囲気に、静かな色気を感じる。

「それじゃ、ホットの紅茶を一つ。」
「はいっ。それでは、お好きな席へどうぞ。」

僕は、窓辺のボックス席に座った。
外をぼーっと眺めていると、プリウスやアクアばっかりを積んだプロフィアのキャリアカーが何台も店の前を通過していった。塗装保護用フィ
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