世話焼きお姉ちゃんに溶かされて。

「目的地周辺です。音声案内を終了します。」
カーナビが、その場所に着いたことを教えてくれる。
「えーっと、桐生、桐生・・・っと。」

ここは、幸川県龍山町(りゅうざんちょう)。
県庁所在地である高山市のベッドタウンとして近年急速に開発が進む小さな町だ。
この町の住宅街にやってきた僕、柚木 神納(ゆずき かんな)はそこである家を探していた。

話は、数日前の一本の電話に遡る。

「そうそう、きぃ姉ちゃん。今度の土曜、高山に向かうんだよ。うん、面接なんだ。」

電話の主は桐生 桔梗(きりゅう ききょう)。彼女は昔近所に住んでた、いわゆる幼なじみのお姉さんだ。

「神納くん、それならうちに泊まりに来てよ。」
「はい?」
「久々に会って、ゆっくり話がしたいのよ。」
「気持ちはわかるけど、迷惑掛けたくないし」
「だーめ。神納くんだってお金ある訳じゃないでしょ。いいから来なさい、ね。」

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「ふっふ〜ん♪神納くんがくるんだぁ♪」
私は、神納くんが来ることで凄く浮き足立っていた。
私の可愛い弟くん。昔はそうだった。
だけど、最近はそれとはまた違う感情が芽生えてきた。

神納くんの大好物を作る材料も用意したし、お部屋もちゃんと掃除した。
いつだって、迎え入れる準備は出来ている。

それは、今夜だけの問題ではない。
永久に、我が一族の一員として迎え入れる準備が。

「神納くん。我々サイラティア一族は、あなたを歓迎します。」

さて、そろそろ神納くんが私の家に着く時間だ。
職場の化粧室で身だしなみの最終チェック。
いつか神納くんは、あまりケバいのは好みじゃないと言っていた。
だからメイクは控えめに。でも髪や服の乱れには気を遣ってと。
最終調整を終えてすぐ、運転席に身をおさめる。

「神納くん、今の私のこと気に入ってくれるかな。」
期待と不安を胸に、私は家路を急いだ。

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「無いよりはマシとは言え、やっぱ安物PNDは精度ダメだなー。」
カーナビの音声が終了して1時間。
僕は、未だにきぃ姉ちゃんの家を見つけることができなかった。

このあたりは以前からあったとは言え比較的新しい住宅地。似たような家が多く、おまけに昨今のハイブリッドフィーバーで右を向いても左を向いてもプリウスだらけ。
あまりの特徴のなさに、全くのヨソ者の僕はどこを走ってるかわからなくなる。

そうしていると、着メロが鳴った。
「神納くん。家に着いて1時間経つけど、どこにいるの?」
「・・・近くまで来てはいるんだが、迷子になった。」
「まぁ、確かにこのあたりは特徴ないし広いからね。今から探しに行くから待ってて。いい、動いちゃダメよ?」

さて、程なくしてきぃ姉ちゃんがやってきた。この絵に描いたかのような没個性的な空間の中では、彼女のダークパープルのギャランはあまりに目立つ存在であった。
親類のお下がりだというのに相変わらず綺麗に磨き込まれていたその車体が、彼女の几帳面さを静かに主張する。

「ほんとごめんね、初っぱなから迷惑掛けて。」
「うぅん、無事に会えて良かったわ。」
そして家に着くと、そのまま買い物に行こうと誘われた。
ドアを開けると、車内もきっちり掃除されていていた。
それはまるで、タイムマシンで15年前のショールームから持ってきたかのようだった。年式的には僕のミニカの方が4年も新しいんだけど、ハッキリ言って逆にそれより4年新しく見える。

そんな車内に土足で踏み入るのは、少し気が引けたのだが・・・

「気にしないで。神納くんの為に綺麗にしてあるんだから。」

なんなんだこのいい女っぷりは!!
きぃ姉ちゃん、僕はもうクラクラです。
その笑顔に、容姿に、そしてその心意気に。

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神納くんが、私の横に座ってきた。
相変わらず、世話の焼ける可愛い弟くんだった。
バッグを引っかき回してケータイの充電器を探していたところを見ると、備えを重視するのも片付けが苦手なのも変わってないみたい。
もし私と一緒に住むって言ったら、いつも綺麗なお部屋で過ごせるようにしてあげる。

そう言えば、私が彼を見つけた時のこと。
おじいさんの軽トラがパンクしてて、普通にタイヤ交換を申し出てて。
お礼を受け取る時も、何だか申し訳なさそうにしてた。
優しいところも変わっていなかったことに、安心した。

だけど、神納くんはその裏返しで少し狡猾さに欠けるところがある。
そう言えば、前のバイトでもお客さんに尽くしたい一心で接客に時間を掛けすぎて怒られたって言ってたっけ。
でも、私はそんな神納くんが素敵に見える。

「神納くん。も
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