押し掛け女房はよくキく麻薬!?

刺さりかけた。
それは雨の日の夜だった。
ハチロクかAW11が活躍するあの漫画じゃあるまいし、冷静に考えればヘビーウェットの峠道だと言うのにオーバースピードだった。
コーナリング中に対向車の水しぶきで思わずブレーキを踏んでしまった。ABSなんてものはまだメーカーオプションの贅沢品だった時代のクルマだったので、いとも簡単にタイヤはロックした。そのあとはただただ滑った。本当に、運良くどこにも当たらず、路肩の待避所で止まれたのは不幸中の幸いとしか言いようがない。何せ、タダでさえ古い上にエコカー補助金にトドメを刺され現存数はかなり少なくなってしまっているのだから。

正直、すぐに出す気にはなれなかった。
恐怖がまだ抜けない。
こういう時の無理は禁物、急ぎの用もないので落ち着くまでじっとしていよう。

すると、窓の外に人影が見えた。
黒髪ロングの和服女性のようだが、暗いのでよくはわからない。
こんな時間にこんなところにいる理由の見当が付かず、僕はとまどった。
この峠に走り屋が出るなんて話は聞いたことがないので、ギャラリーという線はあり得ない。
いや、仮にそうだったとしてもこんな雨の中で雨具なしだなんてどうかしている。
そもそも、そういうことをするような奴には見えない。じゃ何でこんなところに?

すると彼女は僕の横まで来て、軽く会釈をする。僕もつられて返してしまう。
このとき、僕は知らなかった。この会釈が、とんでもない意味を持つことを・・・!

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なんとか気分が落ち着いたのでまた走り出し、家に着いた。
そして扉を開けるとその向こうで・・・驚きの光景が待っていたのだ。
「お帰りなさい、静次(しずつぐ)さん。」
僕はきょとんとして立ちつくした。
さっき峠で見かけたあの女が、三つ指ついてお出迎えしてくれたのだ。
いったいどうして僕の部屋を知り、そして部屋に入ったのだろう。
鍵はきっちりかけたはずだ。事実、キーを回すとロックが解除されたあの音と感触があった。
それに彼女はとても清楚な感じがして・・・とてもピッキングなんてできるような奴には見えない。
じゃあ、目の前にいるこいつはなんなんだ。
しかも全身が濡れたまんまだ。こんな事するくらいならタオルの1枚や2枚引っ張り出してもおかしくない。しかしそんな形跡はどこにもない。

「あぁ、さっきのショックがまだ残ってるのかな。」
そう思わずにはやってられなかった。

だが、ひとたび部屋に入ってそのわずかな希望も失われた。
明らかに部屋がきれいになっているのだ。
正直、整理の下手な僕の部屋にはそこら中に絵の資料やらカタログやらDVDやらが散乱していたはずだ。
しかし、それらがすべてきれいに片づいている。しかも何一つとして捨てた形跡がない。
リューターやはんだごては使いやすいようにフックに掛けられ、昔から大量に使っていてその数の多さからペアどころかブランドすら揃えられていなかったNi-MHバッテリーはかまぼこ板に穴をあけたホルダーに挿されて整然とペアで並んでいる。現在まさに進行中の「自炊」作業に不可欠なScanSnap、いつも観たい番組を録り溜めるBDレコーダーにTV・・・それらの位置関係も使いやすいように計算されて並び替えられていた。自分一人ではこんな事できないだろう。

正直、完璧すぎて言葉が出ない。
他の部屋はどうだと台所を見ると食器だらけの流し台もきれいに片づき、しかもステンレスの輝きがあまりにも眩しすぎる。風呂も、よく見ると今通った廊下も・・・全部隙なしだ。

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「・・・君はいったい、何者なんだい?」
鍵のかかった家に侵入し、あの短時間でここまで完璧に部屋を仕上げ、余裕を持って僕を出迎えた。こんな疑問を抱くのも、当然といえよう。
ちなみに黒髪ロングの清楚な雰囲気に加えて濡れて透けた服から見える肌、きゅっと締められた褌、たゆんたゆんと揺れる乳やぷりっぷりの尻に目が奪われたのは内緒だ。(もっとも、僕はポーカーフェイスは苦手なのでバレているかもしれないが。)

「私ですか?私は瑞恵(みずえ)、ぬれおなごという妖怪ですよ。」
あり得ないことをさらっと言う彼女。
しかし、これはまだ軽いジャブだった。次の発言があまりに衝撃的だったのだ。

「私たちは、微笑み返してくれた人を自分の旦那様にするんです。あ、そうそう。私の身体は変幻自在ですから、いくら鍵を掛けようが逃げ出そうが、どこまでも追いかけますよ。」
正直、めまいがした。いきなり妻帯者になると言うのだから。しかも
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