今日は、盆踊りが有る。私は、市の広報誌のために取材をしなくてはならない。カメラとレコーダー、取材ノートの用意をする。そして、ノートに書いてあるスケジュールとインタビュー項目をチェックする。
私の隣では、妻が浴衣を着てはしゃいでいる。こちらは、遊びのために行くのだ。妻は、友人たちと一緒に行く約束をしている。
私は、妻の浴衣姿を見る。青地に赤い牡丹の花柄の浴衣だ。その浴衣は、妻の白銀の髪と合っている。
浴衣姿で踊る妻は優雅だろう。腹から内臓がずり落ちなければ。
私の暮らしている市は、現在「アンデッドシティ」として売り出している。ゾンビを初めとするアンデッド系の魔物娘を市民として迎え入れようと試みているのだ。ゾンビ好きの市長が音頭を取っている。
市は、アンデッド系の魔物娘に就職先を紹介し、住居の世話をしている。また彼女達に対して、交通機関を初めとする公共機関を利用するための優遇処置をしている。アンデッド専用の商品券の分配も行っている。そして、アンデッド系の魔物娘の起こした企業に対して、土地の取得や施設の整備、公共施設の利用に便宜をはかった。
この政策は、初めは市民の反発が起こった。特定の者を優遇すれば、当然のことながら反発される。まして人ならざる魔物娘、しかもゾンビなどを優遇しようと言うのだ。反発が出るのは当然だ。
だが、市長は断行した。全国の自治体が呆れる中、市長は政策を進めていく。結果から言えば、「アンデッドシティ」計画は成功した。アンデッド系の魔物娘と共に、彼女達の起こした企業が移転してきたからだ。
私達の市は、過疎と雇用の劣化、財政難に苦しんでいた。それがアンデッド達の企業により雇用が改善し、市町村法人税が増収したために財政が改善したのだ。そして、それらの企業は市に根付く施策を始めた。優遇処置をしなければ他の自治体や海外に移転すると恫喝する人間の企業とは対照的だ。
人間の常識から外れているアンデッド達を、市民は初め嫌悪した。だが、アンデッド達は友好的であり、温厚な者が多いことが分かり、市民達は徐々に受け入れていった。第一、アンデッド達を受け入れなければ、市は遠からず衰退し、破たんする事は市民達も分かっていた。
私の妻であるティサは、ゾンビだ。去年結婚した。出会ったきっかけは、車にひかれそうになった私をティサが助けてくれたことだ。広報誌のための取材が難航し、残業で疲れていたために車に気が付かなかった。気が付くと、目の前に車が迫っていた。
私はティサに突き飛ばされ、車にひかれずに済んだ。代わりにティサが車にひかれた。手足が不自然な方向に折れ曲がり、頭からは血が溢れ出していた。顔はつぶれていて、赤黒く染まっている。
私は愕然としながら、震える手で携帯電話をかけて救急車を呼び出そうとした。その時、赤黒い物体となった顔が持ち上がり、眼球を滴らせながら彼女の口の辺りが開いた。濁音混じりで意味は分からない。
彼女は軽く首を振ると、私の方に這いずりながら近づいてくる。私は携帯電話を手からすべり落とし、そのまま動くことも出来ずに彼女を見つめた。彼女は、私に触れそうになるほど近づく。そして指を血に浸し、道路に指を這わせる。
「けがは無いかな」そう血文字で書いてあった。私は、馬鹿みたいに頷く。彼女の顔が動く。後になって、彼女が笑ったのだと分かった。「よかった」そう彼女は血文字で書いた。
ティサはゾンビであり、車にひかれても大丈夫だ。痛みも感じないらしい。ただ、修復するためには治療が必要であり、傷が残る場合もある。ティサは救急車で運ばれ、アンデッド専門の診療科で手術と治療を受けた。眼球が落ちやすくなった以外は、後遺症は無い。
このことをきっかけに、私とティサは付き合い初め、結婚へとたどり着いた。
「さあ、盆踊りに行こうね」
ティサが私を促す。私は、取材の準備を終えており、いつでも出ることが出来る状態だ。広報課の他の職員とは、会場で落ち合うことになっている。
ティサは盆踊りを喜んでいるが、私は不安が有る。彼女達アンデッド系の魔物娘は、とんでもないことをやらかすことが有るからだ。
市には川沿いに桜並木があり、そこは花見会場となる。今年の春に、彼女達は騒動を起こしてくれた。数十人のゾンビとスケルトンが桜の木の下に埋まり、夜になると花見の客の前にはい出て来たのだ。「桜の木の下には死体が埋まっている」を実演したそうだ。花見をしていた酔客達は、腰を抜かしながら失禁したそうだ。
先月もやらかしてくれた。市には海水浴場があり、そこで百人以上のゾンビ達がプカプカ浮かんでいたそうだ。土左衛門ごっこをしていたそうだ。海水浴場はパニックに陥った。混乱のあまり溺れる海水浴客もいたが、ゾンビ達が助けた。もっとも、ゾンビに恐怖し、
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