廃王の庭園

 王の周りは、赤薔薇と白薔薇の生垣で覆われていた。魔界産の黒薔薇の生垣もあった。王は、白大理石で出来た椅子に座り、花へ肥料をやる作業を眺めている。
 肥料は人間の血だ。既に二十人以上の者が斧で斬首され、あと二十人ほどが血を注ぐために控えている。呪いの言葉と絶叫が交差し、鮮血が薔薇へと注がれる。薔薇の香りを圧して、濃密な血の臭いが漂う。
 王は、黒真珠を手で弄びながら眺めている。王の顔には微笑が浮かんでいた。

 王は、庭園造りに情熱を注いでいた。幾何学的な造りの庭園を宮殿に築いている。花や草木が整然と配置され、彫像と噴水が同様に秩序正しく配置されている。王は、古代の数学者が書いた幾何学の本を愛読しており、その本に従って庭園を築いているのだ。
 王は、この庭園の絶対的な支配者だ。王は、花や草木に自然な発育を許さない。王の定めた秩序に従いながら生きる事を強要する。不要と見なした芽は摘み取り、つぼみや枝は切り取る。あくまで王の支配を拒否する花や草木は、引き抜き、切り倒す。
 王は、花に念入りに肥料を与える。様々な文献を調べ、専門家の話を聞き、実験を繰り返す。その成果もあり、花は美しく咲いている。
 王が最も好む肥料は、人間の鮮血と屍だ。王は、数多くの者をこの庭園で斬首し、その屍を埋めた。白薔薇を鮮血で赤く染め、赤薔薇の木の根元に屍を埋めた。

 粛清の計画を立てる王の元に、庭師が報告に来た。魔性の花が咲いたと掠れる声で報告したのだ。王は、怪訝そうな顔をしながらその花の所へと足を運ぶ。妖花は、庭園の中央に薔薇の生垣に囲まれて咲いているそうだ。
 薔薇の生垣の通路を抜けると、その妖花は有った。その花は、通常ではあり得ないほどの大きさを持っていた。大人を簡単に呑み込む事が出来るほどの真紅の花弁を広げている。花弁の中央には琥珀色の蜜がたまり、蜜の中から緑色の肌の女が体を露わにしている。女は、王を見つめると嫣然と微笑んだ。
 お前はアルラウネか?王は妖花に問う。
 ええ、そうよ。彼女は笑いながら答える。
 アルラウネとは花の魔物だ。巨大な花の中に人間の女が生えている。鮮やかな色の花弁と甘く濃厚な香り、甘美な蜜を使って人を誘う妖花だ。
 あなたは誰かしら?アルラウネは問う。
 余は王だ。王は短く答える。
 なぜ、お前は咲いたのだ?王は問う。
 この地は血が染み込んでいるわ。罪に彩られた地よ。そのせいではないかしら。アルラウネは口の端を吊り上げて笑う。
 王は、しばし黙考する。王は計算し、計画を立ててこの庭園を築いている。アルラウネの存在は計算外だ。取り除くべきか。
 王は、アルラウネを見る。真紅の花に包まれた女だ。切れ長の目が印象に残る細面をしており、薄い唇に蠱惑的な笑みを浮かべる。豊かな胸をわずかに蔦で覆い、くびれた腰の下は蜜の中に隠れている。人ならざる美しい女だ。
 王は庭園を見渡す。整然とした薔薇の生垣、幾何学模様を描いて配置された百合の花壇、芳香を漂わせるラベンダーの連なり、神話で活躍する美女の彫像と、それを取り囲む噴水。その最中で、妖花は赤く咲いている。辺りには、百合やラベンダーの香りと妖花の香りが混ざり合って漂っている。
 よかろう、お前の世話をしよう。お前は余のものだ。王は傲然と言い放つ。
 アルラウネは、わざとらしく一礼をする。
 お前の名は何というのだ?王は妖花に尋ねる。
 名は無いわ。あなたが付けてくれないかしら。アルラウネは、唇を舐めながら答える。
 考えておこう。王は、冷ややかに背を向けた。

 王の庭園造りは区切りがつき、管理へと移行した。王は、花や草木を型にはめて育てる。整然と配置した彫像を完全な形に保つ。王は、庭園を自分の支配下に置き続けた。アルラウネ以外は。
 アルラウネだけが、王の支配下にない。王は、アルラウネに水や肥料を与え、アルラウネの望む通りのものを与える。アルラウネの体を剪定する事は無い。彼女だけがこの庭園では例外だ。
 だが、庭園の影響を受ける事はある。王は、この庭園で人間の斬首を行わせる。アルラウネの近くには薔薇の生垣が有り、そこでも繰り返し行わせた。そして、それらの花や木の下に屍を埋める。アルラウネが栄養を取る場所の近くだ。
 アルラウネは斬首を嫌悪の表情で見つめるが、王は気に留めない。黒真珠を弄びながら斬首を見物する。時折、アルラウネの方にふざけた態度で黒真珠をかざす。不快そうに顔を背ける彼女を見て、王は楽しげに笑った。

 庭園は月光に照らされていた。青白い月が花や彫像を輝かせている。庭園の各所で髑髏が輝いている。王は、斬首した者の髑髏に金箔、銀箔を塗り、庭園に飾っていた。昼は日光の下でまばゆく輝き、夜になると月光の下で青白く輝く。
 王は、白大理石の椅子に座りながら庭園を眺めていた。紫水晶を
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