軽やかな破裂音が響きわたった。俺は、ベッドの上で目を見開く。何が起こったのか分からない。
破裂音は六発ほど続く。音は外から聞こえてくる。俺は、寝ぼけた頭で思い出す。あれは祝砲だろう。今日は祝祭日だ。この街では、年に一度祝祭がある。魔王や神々を称え、街の繁栄を祝う日だ。祝祭は今日から三日続く。
俺は、ベッドの中で身じろぎしながら考える。職場の同僚から、この祝祭に参加することを勧められていた。祝祭の間は、俺は休暇になっている。俺は半年前にこの街に来た。一度も祝祭に参加したことは無い。
俺は、祝祭に参加することにした。一日中寝て過ごすのも楽しいが、好奇心が勝ったのだ。俺は、ベッドから跳ね起きる。
俺は、フレッシュチーズ入りのパンとコーヒーで朝食をすます。パジャマを脱ぎ捨てると、空中にライムの香りのする香水を噴き上げてその下をくぐる。普段は香水をあまりつけないが、祝祭だからつける気になったのだ。俺は香りを身にまとうと、水色のシャツと麻で出来た白いスーツを着る。
グラスに氷を入れ、ラム酒を入れようとする。ブラックラムにするかホワイトラムにするか少し迷うが、ホワイトラムにすることにした。昼間の祝祭にはホワイトラムの方が似合う気がする。ホワイトラムを入れると何度かグラスをゆすり、喉に流し込む。氷で冷やされたラム酒の甘い味わいが口に広がる。
景気づけをすますと、俺は住んでいる部屋から飛び出した。
外は、白い家の壁が日に照らされてまぶしい。この街は、花崗岩と大理石でできた白い街だ。空の青と海の青が、白い街と鮮やかな対照となっている。俺は少し目を細めると、人を避けながら大通りへ進む。
空にはドラゴンとハーピーが飛び回っていた。ドラゴンは宙に赤い炎を噴き、緑色の巨体を誇示している。鳥の魔物娘ハーピーは、かごから赤色、ピンク色、黄色、オレンジ色、紫色の花びらを撒いている。俺の肩に、紫色の花びらがのる。
大通りでは踊りや見世物の披露が行われていた。祭りの間は交通規制がされて、車が通らない所が多いのだ。大通りの真ん中で、褐色の肌の踊り子が弦楽器に合わせて踊っている。広場では、巨体を誇るオーガが岩や木を破砕して見せている。
歩いている人々の服装は様々だ。白いチュニックに赤いトーガを羽織った男が大股で歩いている。黒い三つ揃えのスーツに紫色のアスコット・タイの紳士が、婦人と談笑しながら歩いている。黒いパーカーに黒いジーンズの青年が、噴水のふちに腰を掛けてビールを飲んでいる。様々な時代の服装が入り混じっている。この街では普通のことだ。
軽快な破裂音が響き渡った。合計で三発だ。祝砲の音を合図に人の流れが変わる。大通りから外れる人々と、大通りへ入る人々の流れだ。俺は、訳が分からずに辺りを見回す。大通りにいる者達は男だけになった。男達は小走りに走り始める。
俺はやっと思い出した。この大通りで牛追いが始まるのだ。祝砲を合図に牛達が走って来る。男達は牛から逃げ、牛達は追う。その追いかけっこを楽しむのだ。ただし、牛はただの牛では無い。ミノタウロスなどの牛の魔物娘達だ。
俺は、慌てて大通りから出ようとする。だが、男達の流れに邪魔されて上手く出ることが出来ない。俺は斜め前に走りながら出ようとする。
後ろから獰猛な叫び声と、とどろくような地を蹴る音が聞こえ始めた。「牛」が追って来ているのだ。「牛」達は、男を捕えようとしている。周りの男達は笑いながら走り始める。俺は、流れに邪魔されながら大通りを横へ出ようとする。後ろを振り向くと「牛」達の姿が見える。角を振りかざし前のめりに突進してくる。
俺の後ろを走る男がミノタウロスに捕まった。ミノタウロスは、汗を飛ばしながら腕を回して男を抱き寄せる。ミノタウロスは、汗で濡れ光る顔を男の顔に押し付けて頬ずりをする。歓喜の叫びが牛の魔物娘の口からほとばしる。
俺は、ぎりぎり大通りから外れることが出来た。俺の横をミノタウロスが走り抜けていく。ミノタウロスは、俺を横目で見ながら舌打ちをする。どうやら俺を狙っていたらしい。俺は、走り去っていくミノタウロスの背にふざけた態度で手を振ってやる。俺は、ミノタウロスの婿になる気は無い。
この牛追いに参加できるものは、妻や恋人のいない男だけだ。彼らを、夫や恋人のいない牛の魔物娘が追う。捕まった男は、捕まえた魔物娘のものとなる。
俺は、大通りの横に立ちハンカチで汗をぬぐいながら、走っているミノタウロス達を眺めた。褐色の大柄な体は、胸や下腹部をベルトで隠しただけの姿だ。むき出しになっている体は、躍動する筋肉で弾けそうだ。突き上げられた角の下の顔は、精悍であり整っている。彼女達の顔も体も、汗で濡れて光っている。
彼女達の方から風が吹いてきた。甘い汗の匂いが俺の鼻を覆う。彼女達の体
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