這いつくばる悪魔

 暗い教会の中は静かだ。礼拝と説教の時には人が集まるが、普段は人の気配はない。私は椅子に座りながら、礼拝堂の中を見回す。ステンドグラスから七色の光が差し込む。既に外は夕暮れだ。
 羽ばたく音と共に、黒い影が舞い降りる。硬い靴音を響かせて礼拝堂の床に降り立つ。黒い翼を広げた青い肌の女が、私に向かって嫣然と微笑む。一目で人間では無いと分かる女だ。その女は、胸や下腹部を辛うじて覆う革製の黒服を身に付け、官能的な体を私にひけらかしている。
 人ならざる女は私の前に這いつくばり、犬のように私に向かって歩いてくる。私の所まで来ると、赤い瞳で上目づかいに見上げる。そうして柔らかい体を私の足にすり寄せた。悪魔女の体からは、重い甘さのある香水の香りが立ち上って来る。
 私は、体をすり寄せてくる女の頭を愛撫した。硬い角の感触と柔らかい髪の感触が、私の手の平に感じられる。女は、艶麗な顔に微笑みを浮かべながら愛撫を受けている。堕落した神父である私は、悪魔女の体を愛撫し続けた。

 私の堕落の過程を説明しよう。もしかしたら、あなた達の参考になるかも知れない。
 前述した通り、私は神父だ。この国の南部にある地方都市にある教会を任されている。名はアンリという。
 私が神父になった理由は、私の家の生業である騎士が落ち目であるためだ。魔物に対する「聖戦」の失敗と王の権力の拡大は、騎士の没落を招いた。父の代には、すでに騎士の先は見えていた。私の物心がついたころは、私の家は衰退が露わとなっていたのだ。
 父は、そんな状況に必死に抗った。王や諸侯と昔ながらの契約を結び、戦で役立とうとした。それが上手く行かないと、自家の独立を捨てて王や諸侯の直属軍に入ろうとした。これも上手く行かないと知ると、私と兄を騎士として鍛えようとしたのだ。
 私は、幼いころから父に武術を叩きこまれた。父の教育は、暴力と共に行われた。父は七歳の子供である私を、毎日のように握りこぶしで殴り飛ばした。私の鼻はひしゃげているが、それは子供の時に受けた父の暴力の結果だ。父は、多分狂っていたのだろう。教育と虐待の区別がつかなくなっていたのだ。
 父の暴力は、私と兄以外にも向けられた。父は、機嫌が悪くなると母を平手で殴った。鼻から血を流し頬の腫れた母の姿は、子供の私の目に焼き付いた。家族ですらこの有様なのだから、父の支配下にある者達がどのような目にあったか分かるだろう。家で働く下男、下女、そして父の領地の農奴は、青あざと鞭の跡で体が覆われていた。
 父は、暴力に狂っていただけでは無い。色にも狂っていた。私は、十一歳の時の光景を忘れられない。便所に行くために夜中に起きると、物置部屋の方から物音がするので覗いてみた。物置の中にはランプが置いてあり、薄明りで照らされていた。その中で、裸になった下女が這いつくばっていたのだ。
 私は、目の前の光景の意味が分からなかった。なぜ下女が裸で這いつくばっているのか?部屋の中を見回すと、鞭を持った父が裸で立っていた。父は、下女の尻を鞭で打ち始めた。物置の中に乾いた音が鳴り響く。明りに照らされた尻は、汗で濡れて鈍く光っている。その尻に、次々と鞭の跡が出来ていく。父は繰り返し打ち据えると、自分の腰をすすり泣く下女の尻に押し付けた。父と下女は、獣じみた声を上げて交わり始めたのだ。
 この光景は、私の性を目覚めさせた。退廃と倒錯、暴力に彩られた光景が、私の獣性に火を付けたのだ。この光景が、その後の私の人生に狂った影響を与え続けることになる。
 やがて下女は子を孕んだ。その子供は下男との間の子供とされ、下女は下男と夫婦にさせられた。この子供、ジャンが私の人生を操ることとなる。
 私は十四歳になると、父の友人である騎士の従騎士となった。私は、父の次にこの人から騎士の技術と知識について教わったのだ。アントワヌという名のこの騎士は、厳しい人だったが父の様に理不尽に暴力をふるうことは無かった。落ち着いた人であり、私を辛抱強く育ててくれた。アントワヌの誠実な教育を受けることで、私は騎士となれると思った。
 だがこの人の影響によって、私は騎士では無く神父となった。私が二十歳の時に、彼は修道院に入った。騎士の没落に失望し、神の元で修行することを望んだのだ。私の騎士教育が終わるまで待っていたのだ。
 彼は私に最後の訓示を与えると、「お前も神の道を歩んだほうが良いかもしれぬ」と呟くように言った。
 私はこの言葉に従った。私は、騎士と言うものに幻想は抱いていなかった。衰退と父の暴力が、私にとって騎士を象徴していた。私が十八歳の時に父は死んでいたので、父から反対される恐れは無かった。後で知ったことだが、農奴の娘を犯すために父は冬の夜に出歩いたのだ。その帰りにみぞれ交じりの雨を浴びて、父は肺炎となって死んだの
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