男は、処刑台を洗っていた。処刑台は、血と肉片で汚れていた。水をかけブラシでこすった。この場で斬首が行われてから、それほど時間はたっていない。あたりは生臭いにおいが漂っていた。
斬首は、台を洗っている男が行った。男は処刑人だ。数多くの者を斬首して来た男だ。斬首とは比べ物にならないほど残虐な処刑も行ってきた。
蛆虫野郎、とどこからか聞こえてきた。処刑人は見向きもしなかった。何も言わず、処刑台を洗い続けた。血肉を喰らう犬、と先ほどは聞こえてきた。その時も処刑人は振り向かなかった。
少しはなれたところにある台には、女の首がさらされていた。すでに蠅がたかっていた。
一人の少女が、処刑人を眺めていた。少女は人間ではなかった。顔は整っていた。だが、頭から2本の黒い触覚が生えていた。背には薄紫色の羽が生えていた。手はかぎ爪のようになっていた。人間の尻にあたる部分からは、昆虫のような腹と尻が突き出ていた。
少女はベルゼブブと呼ばれる魔物だ。蠅の王の異名で呼ばれる魔物だ。少女は頭に髑髏のデザインの髪飾りをつけ、羽には髑髏のマークが浮かんでいた。
少女は表情を浮かべず、じっと処刑人を見つめていた。
処刑人が作業を終えて台から離れると、少女は笑みを浮かべながら近寄ってきた。
「さあ、早く帰ろう。だんな様」
処刑人は、振り向きもしなかった。ただ、ぼそりとつぶやいた。
「お前を妻にした覚えはない」
少女は、ニヤニヤしながら言った。
「あれだけやりまくって、それはないだろ?中でも出しまくったじゃないか」
少女は、恥ずかしげもなく言った。少し離れた所にいた女が、二人を嫌悪と侮蔑の表情で見た。
「なぜ俺に近づく?」
処刑人ははき捨てた。
「いい臭いがするからさ」
少女は、わざとらしく鼻を鳴らして処刑人のにおいをかいだ。
「死臭か」
処刑人は、つまらなそうにつぶやいた。
少女が処刑人に付きまとうようになったのは、一月前からだ。
処刑人は、罪人の処刑を終えて帰路についていた。少女は、いきなり現れると
「お兄さん、いい臭いがするね」
そう言ってまとわりついた。いくら追い払っても付きまとってきた。
家に上がりこむと、パンや肉をむさぼり食い始めた。ぶどう酒を勝手に飲んだ。食うだけ食い、飲むだけ飲むと処刑人を押し倒した。処刑人は頑強な男である。少女を払いのけるなどたやすいはずだった。だが、少女は見かけとはぜんぜん違い、怪力を持っていた。処刑人は、人間と魔物の違いを思い知らされた。
あきれたことに、少女は処刑人の腋や股の臭いをかぎ、なめ回し始めた。ペニスをさも旨そうにしゃぶった。処刑人がこらえられずに精を放つと、下品な音を立てて吸い上げた。
少女は処刑人の上に馬乗りになり、ペニスを自分の中に飲み込んだ。激しく腰を動かし、処刑人の精を搾り取った。繰り返し繰り返し、精を絞り上げた。
処刑人が意識を取り戻したのは、日が昇ってからだった。
「お兄さん、気に入ったよ。これからよろしくね、だんな様」
そう少女は笑いながら言った。それ以来、処刑人のところに居座り続けている。
処刑人は、町の市場を歩いた。食料を買うためだ。
処刑人は鈴をつけていた。その音を聞くと、人々は嫌悪をあらわにして道を開けた。処刑人は、鈴をつけることを強要されていた。町の人が処刑人だとわかるためだ。
処刑人は、パン屋の前に立った。パン屋は処刑人の鈴の音を聞くと、今までの愛想笑いが嫌悪の表情に早変わりした。処刑人は、店の台に金を投げ出した。大きなさじを袋から出すと、パンを指し示した。パン屋は顔をしかめながら、パンをさじの上に載せた。処刑人がパンを袋の中に仕舞い背を向けると、パン屋は舌打ちをした。
「こんな店で買うなよ。もっといい店がある」
そう少女は言い放つと、処刑人の手を引いて早足で歩き始めた。少女は、不機嫌そうに顔を歪めている。
「どうでもいいことだ」
処刑人は、気の無い風に言った。
「あれが客に対する態度かよ。ふざけるなって」
少女は苛立ちをあらわにして言った。
少女と処刑人は、一件の肉屋の前に立った。店の中から、店員である若い女が出てきた。女は、上半身は普通の人間だった。だが、下半身は緑色のうろこに覆われた蛇の姿だった。
「あら、アナト、シャルルさん、いらっしゃい」
女は、愛想よく笑いながらあいさつをした。
女はラミアだ。上半身は人間の女、下半身は蛇である魔物だ。
この国は、もともとは反魔物国だった。主神教会が大きな勢力を持っていた。しかし主神教会の勢力は、この地で衰えてきた。それに伴い、この国は中立国へと立場を変えた。この国には、魔物が移り住むようになった。
「豚肉を売ってくれ。新鮮なやつをね」
アナトと呼ばれ
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