妖精の女王に抱かれて

 血と泥で汚れた兵達が結集していた。その数は五十に満たない。王子の軍は、ほとんどが殺されていた。王子の周りに集まっている兵は、わずかな生き残りだ。彼らは、廃墟のような建物の陰に隠れている。
 彼らの周りを敵兵達が取り囲んでいた。王子の軍が隠れている建物を攻撃する準備を整えている。包囲軍は弓やクロスボウ、そして銃で狙いをつけている。包囲軍は、王子の父王が派遣した軍であり、兄王子が司令官だ。
 王子は、最後まで自分に付き従った者達を見渡す。傷つき汚れ、疲れ切った者達だ。王子は、彼らをこの様な目に合わせた事に苦痛を覚える。だが、わざと明るく声を張り上げる。
「諸君は良くやってくれた!諸君の功績は、子々孫々まで伝わるだろう!そして神は、諸君の功績を見ていて下さっている!諸君を諸侯や貴族に取り立てたかったが仕方がない。我らは神の元で栄誉を得よう!」
 兵達は、拳を突き上げて声を張り上げて応える。力尽きようとする者達は、最後の力を振り絞って応えているのだ。
 王子は、微笑みながら彼らを見渡す。こいつらは良くやってくれた。真の愛国者として戦ってくれた。本来ならば、こいつらこそ諸侯や貴族になるべきなのだ。このまま朽ちさせる事は残念すぎる。俺も、このまま死にたくなどない。だが、仕方がないのだ。王子は、唇をかみしめる。
 王子は、兵達に敵の攻撃を迎え撃たせようと命令を発する。王子の胃が締め付けられる。死が迫っているのだ。覚悟したはずでも、恐怖は襲い掛かって来る。冷たい汗が体を流れる。
 王子は目を擦った。恐怖のあまり幻覚を見るようになったかと思ったからだ。辺りに虹色の霧が渦巻いている。だが、幻覚では無い。兵達もざわめきながら虹色の霧を見ている。虹色の霧は、光を放ちながら王子達を包もうとしている。兵達は、恐怖の叫びをあげる。
 霧は光の輪となり、王子達を飲み込んだ。まばゆい光が王子を照らす。王子は、こらえられずに叫び声をあげた。

 気が付くと、王子は花畑の中にいた。赤、青、黄、オレンジ、ピンク、紫、白と様々な色の花が蒼穹の下で咲き乱れている。辺りには、甘さと爽やかさが混ざり合った香りが漂っている。その直中で、王子と兵達は立ち尽くしていた。
 王子は茫然としていたが、我に返った。密集陣形を整えよと命令する。王子同様に気の抜けたように立ち尽くしていた兵達は、弾かれたように陣形を整え始める。
 王子は、状況が理解できない。虹色の霧に飲まれたら、花畑にいる。異常な状況だ。俺は天国へ来たのか?馬鹿げているとは分かっていたが、王子はそう思ってしまう。
 不意に、軽やかな笑い声が起こった。少女のような笑い声が、辺りにいくつも起こる。だが、辺りには一人も女はいない。
 兵達は、武器を構えて辺りを見回す。脂汗を流しながら、敵に対して身構える。王子は、険しい表情で花畑の各地に視線を突き立てる。
 王子は、再び目を擦った。自分の目を信じる事が出来なかった。羽を生やした小人達が辺りを飛んでいるのだ。自分の顔よりも少し大きいくらいの背丈の少女達が、透けて見える薄い羽根を羽ばたかせて飛んでいる。
 兵達も、驚愕を露わにして少女達を見つめていた。彼らも自分の目を信じる事が出来ないのだ。手に持った武器を少女達に向けながら、どうすべきか判断が付かないでいる。
「私達は、あなた達に危害を加えたりはしないよ。あなた達の傷を手当てし、食べ物をあげるからね」
 小人の一人が、明るく響く声で話しかけてきた。彼女は、王子の前へ飛んで来る。
「あの光る霧はお前達がやったのか?我々をここへ連れてきたのはお前達か?」
 王子は、声が上ずらないように注意しながら、目の前の小人を誰何する。小人は、その通りよと楽しげに答える。
 王子は、小人を見据えながら必死に考える。こいつらが俺達を連れて来ただと。こいつらは何だ?俺達をどこへ連れてきた?敵か味方か?何が目的だ?王子は、異常な状況に飲まれる事に抗いながら考える。
 王子は、自分を抑えながら質問の言葉を発した。羽の生えた小人は、可笑しそうに質問に答える。
 兵達は、険しい表情で飛び回る小人達に武器を向けていた。だが、花畑を飛び回る少女を見ながら花の香りを嗅いでいるうちに、武器を持つ手の力が抜けていく。
 その中で、王子は必死に自分を保とうとしながら、質問を続けていた。

 王子達は、妖精達の女王の元へと案内されていた。王子達の前に現れたのは妖精だ。彼女達は、女王の命令で王子達を妖精の国へ連れてきたのだ。王子達のいた花畑は、妖精の女王が住む都の郊外だ。そこで王子達は手当てを受け、食事を与えられた。そして女王の元へと都を歩いているのだ。
 王子達は、都を驚愕の表情で見回していた。何千、いや何万だろうか、おびただしい数の巨大なキノコが生えている。それらのキノコ
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