カク猿の隠里

 よお、大分元気になったようだな。ここに来た時は、半分死んでいた様なもんだったからなあ。もう、酒も飲めるだろう。
 まあ、座れよ。この通り飯と酒を用意している。女達は、もう少ししたら来るさ。先に初めよう。
 ほれ、グッといきな。そうそう、いい飲みっぷりだ。酒を飲めばいい気分になれるさ。
 ここは安全な所だ、心配する事は無い。お前さんを追っていた連中は、あきらめて引き返しただろうさ。散々山の中を迷っていたからな。
 この里は、お前さんをかくまってやるよ。安心しな。ここには、逃げ出してきた農民たちが住み付いているんだ。お前さんと同じ様な理由でね。役人どもは、この里を見つける事は出来ないのさ。
 この里は、元々はカク猿たちが住んでいた里だ。あいつらは、山の中に入り込んで来た人間を、この里に連れてくるんだ。お前さんは、連れてこられた一人という訳さ。お前さんも見ただろ。あの赤いケツをしてしっぽを生やした女達を。あいつらがカク猿さ。
 俺も、お前さんと同じさ。昔、俺もカク猿にこの里に連れてこられたんだ。山の中で野垂れ死にしそうになってね。
 ちょいと、俺の昔話に付き合ってくれよ。俺の話を聞けば、お前さんが安全だってわかるだろうさ。

 俺がこの里に来たのは十一年前だ。俺は、農民の起こした乱に参加していてね。あんたは、十一年前の乱を知っているかい?ああ、知っているのか。なら、話は早い。俺は、その乱に参加して敗れたわけだ。それで逃げ回っていたわけだ。
 全くひでえ話だぜ。俺の様な小作人は、地主どもにこき使われて奪い取られる。役人どもは、地主の味方さ。俺たちが少し不満を漏らすと、散々殴って牢屋へぶち込みやがる。あんまり殴られたんで、牢屋の中で死んだ奴もいる。
 国は、地主の味方なのさ。何せ、地主の子供が都の役人になるからな。科挙と言ったっけ、その試験に合格できるのは地主の子供だからな。勉強なんて出来るのは、金のある奴だけだ。勉強して役人になった金持ちの息子は、金持ちに都合のいい事ばかりする。地主が俺達から奪い取る事は、法に基づいているそうだ。地主の息子が法を作るんだから当たり前だろ。
 それに、地主どもは法に反する事も平気でやる。用水路の中には地主の物にしてはいけない物もある。山や林だって、本当は奴らの物では無いのさ。それなのに、奴らは自分の物にしちまう。俺たちが使おうとすると、代価を要求しやがる。役人どもは見て見ぬふりさ。
 豊作の時でも、俺たちは腹をすかしている。地主どもが奪い取っていきやがるからな。不作の時も、地主どもは奪い取りやがる。おかげで飢え死にする奴がゴロゴロ出る。お前さんは、その事を体でわかっているだろ。
 十一年前は不作でね、それなのに地主どもは作物を奪い取りやがる。このままじゃ飢え死にする奴が大勢出ちまう。それで、乱が起こったわけさ。俺も追い詰められていてね、乱に参加したのさ。
 楽しかったよ、散々暴れ回ってさ。地主の家に殴り込んで、家の中を滅茶苦茶にぶっ壊してやった。奴ら、きれいな家具や服をたんまり持っていたよ。金や銀、それに宝石で飾られた家具がたんまりあった。俺たちが一生着る事の出来ない絹服が山ほどあった。片っ端からぶっ壊し、切り裂いてやったよ。その後は家に火を付けてやった。
 役人どもが兵を率いて俺たちを殺しに来たが、逆に殺してやった。俺のいた地方のほとんどの小作人が反乱に参加したからな。数が全然違うんだ。逆に役所を襲って、焼き払ってやった。役所はきれいに燃えていたなあ。
 だけど、俺たちに出来た事はそこまでだ。この地方の長官が、都に救援を呼びやがった。都は、すぐに軍を送って来やがった。俺たちは戦いの素人、向こうは戦いが仕事の兵隊たちだ。おまけに都は結構な人数の兵隊を送ってきた。俺たちは、あっと言う間に負けたさ。
 俺は必死で逃げ回ったよ。奴らは俺たちを皆殺しにするつもりさ。小作人の代わりは国中にいくらでもいる。流民も大勢いるからな。奴らに畑と農具、それに少しばかりの食い物をやれば小作人の代わりになるのさ。逆らった小作人は、皆殺しにした方が後腐れの無いわけだ。
 俺といっしょに逃げていた連中は、次々と殺されたよ。矢で射られ、槍で刺され、剣で切られ、馬に蹴られて殺されたよ。奴ら、笑いながら俺たちを殺しやがった。女、子供まで楽しそうに殺しやがった。
 俺は、野山をはいずり回りながら逃げ続けた。そしてカク猿の住む山へ逃げ込んだわけだ。

 暗い話をしちまってすまねえな。だが、話には順序がある。この里の事を話すには、暗い話も必要なんでな。
 まあ、飲めよ。酒のおかわりはまだ有るからよ。ここでは、結構いい白酒を作っているんだぞ。食い物ももっと食えよ。このニワトリはうまいぞ。カク猿は、意外と料理が得意なんだよ。
 話はどこまで行っ
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