あかなめVSベルゼブブ 臭い喪男はあたしのものだ!

 宮代悟は溜息をついていた。自分の体から発している臭いに辟易しているのだ。自分が辟易しているのだから、他の者は嫌悪を通り越して憎悪しているだろう。
 悟は、生まれつき体臭がきつい。加えて、太っている為に汗を掻きやすい。昨日の夜にきちんと風呂に入ったが、朝には臭いがしていた。朝起きたらボディーシートで体を拭き、下着を変える。それにも関わらず、昼頃には耐えがたい臭いがするようになる。放課後である現在では、歩く公害だ。
 ただ、悟の臭いを愛する魔物娘もいる。突然、一人の少女が悟の背に飛びついて来た。
「悟は相変わらず臭いねえ。そそるじゃないの」
 悟に飛びついた少女は、鼻を鳴らしながら悟の右腋に顔を埋めて臭いを嗅いでいる。そばかすの浮いた可愛らしい顔に、歓喜の表情を浮かべている。小柄な体を、悟の太った体に張り付けていた。
 今いる場所は、校舎と木の影だ。人に見られる事はあまりないが、それでも少し恥ずかしい。第一、前触れも無く飛び付かれたら危ない。
「里中、いきなり飛びつかないでくれよ」
 里中と言われた少女は、ふくれっ面になる。
「二人だけの時は、朱音と呼んでよ」
 少女は、悟の肩に軽くかみつく。そして舌を伸ばして、服の隙間から悟の腋をなめ回す。その舌は人間ではありえないほど長い。悟は振り払おうとした所、新たな衝撃に体をよろめかせた。
「臭うぜぇ、喪男の臭いがプンプンするぜぇ」
 悟の背に、新たな少女が飛びついていた。朱音と同様に制服を着た小柄な少女だ。だが、背からは薄い紫色の羽が生え、スカートの尻からは昆虫のような黒い尻が出ている。羽の生えた少女は、悟の左腋を嬉しそうにかいでいる。
「ちょっと、エディッタ。人の男に手を出すんじゃないよ!」
 朱音は、眉を吊り上げて怒鳴る。
「うるさいね、あんたこそ引っ込んでな!」
 エディッタと呼ばれた少女は、可愛らしい顔にふてぶてしそうな表情を浮かべて言い放つ。
 二人は睨み合いながら、悟の腋の臭いを嗅ぎ、なめ回す。
 悟は、溜息をつきながら天を仰ぐ。いつもの事だが、疲れる事は変わらないのだ。

 悟は、幼いころから体臭のために他人から馬鹿にされ、嫌われてきた。悟は大柄であり力が有るために、いじめられる事はあまり無い。小学生の時に蹴りを入れて来た同級生の男子生徒を、壁に向かって突き飛ばした。突き飛ばされた生徒は、脳震盪を起こして白目をむいていた。それ以来いじめられる事は無いが、馬鹿にされ嫌われている。
 人間だけでは無く、魔物娘の生徒からも避けられていた。魔物娘の生徒は、人間のように馬鹿にしたり嫌ったりはしない。それでも、臭いのために悟を避けていた。ワーウルフや稲荷などのウルフ種の魔物娘は、マスクをして臭いを防いでいる。彼女達の優れた嗅覚には、悟の臭いはきついものだろう。
 悟としては、やれるだけの事はやっていた。毎日風呂に入り、汗をかいたらボディーシートで体を拭いている。親は悟に毎日着替えさせ、まめに服を洗濯してくれる。悟も、服に消臭、除菌スプレーをかけている。
 だが、生まれつきの体臭はどうにもならない。おまけに、悟は太りやすい体質、汗を掻きやすい体質だ。悟としては、諦めるしかない。
 体臭のために人から嫌われ、その事から悟は人付き合いを嫌うようになった。極力人には近づかず、話す言葉も必要最小限だ。悟に近づこうという者もほとんどいない。こうして悟は、小学校時代まで孤独な日々を過ごした。
 だが、中学校に入ると状況は変わった。二人の魔物娘が悟に近づいて来たのだ。一人はあかなめである朱音、もう一人は蠅の魔物娘ベルゼブブであるエディッタだ。
 朱音は同じクラスの生徒であり、一人でいる悟に積極的に話しかけて来た。他の者が嫌がる悟の体臭も、全く嫌がらない。それどころか熱心に嗅いでいる。
 あかなめは、その名の通り人間の垢を好む魔物娘だ。人間の体臭が好きな魔物娘でもある。あかなめの朱音にとっては、悟のように体臭がきつい人間男は大好物なのだ。朱音は、毎日のように悟の臭いを嗅ぎながらコミュニケーションを取った。
 初め悟は、朱音の存在を疎ましく思っていた。だが、自分のコンプレックスの元である体臭を好み、繰り返しコミュニケーションを取ろうとする朱音に好感を持つようになった。こうして二人は、徐々に恋人同士へと変わっていった。
 ところが、悟に執着する者がもう一人いた。それが、同じクラスの生徒であるベルゼブブのエディッタだ。エディッタも、悟に積極的にコミュニケーションを取ろうとし、悟の体臭を嬉しそうに嗅いでいる。
 ベルゼブブは蠅の魔物であり、人間の汗や垢、体臭を好む魔物娘だ。エディッタにとっても、悟はごちそうなのだ。エディッタは、朱音同様に悟の臭いを嗅ぎながらコミュニケーションを取った。
 こうして悟を巡り、朱
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