キマイラ作家は今日もエキセントリック

 俺は、会社の仕事を終えて家に帰って来た。家には同棲相手がいる。俺は、その女の事を思って溜息をつきそうになる。
 別に、俺はその女が嫌いなわけでは無い。ケンカしている訳でも倦怠期を迎えている訳でも無い。ノロケになるが、仲はいいと思う。問題なのは、その女の頭がアレなことだ。
 俺は、家の鍵を開けて二階へと上がる。その女の部屋の前に着くと、ノックをしながらただいまと言う。
「お帰りなのじゃ、わしも今起きた所じゃ」
 言って置くが、今はもう日が暮れている。にもかかわらず、部屋の中にいる女は「今起きた」と言った。そして、これは毎日の事だ。
 部屋の中には、俺の同棲相手が寝転がっていた。ノートパソコンを熱心に相手している。これが執筆だったら文句は無いが、この女がしていることはゲームだ。旧日本海軍の軍艦を擬人化したキャラクターが登場するブラウザゲームをやっている。
 この女の格好は、見事なまでにだらしない。よれたシャツの上に大きめのパーカーを羽おり、穴の開いたスウェットパンツをはいている。女の周りには、スナック菓子の袋やカップ麺の容器、ジュースのペットボトルが散乱している。
 見事なまでにダメ女の姿だ。だが、この女の姿は異様な迫力がある。寝ぐせの付いた金色の髪からは、茶色と黒色のねじれた角が生えている。シャツの肩部分は空いており、右肩からは山羊の顔が、左肩からはドラゴンの顔が覗いている。パーカーの背の部分には穴が開いており、そこから黒い翼が生えている。そして尻の部分からは、紫色の蛇がのぞいていた。
 俺の同棲相手は、キマイラと言う魔物娘だ。見るからに人間とは違う体をしている。同時に、人間の女と同じ体の部分も持っているのだ。弛緩している顔は、若い女の顔だ。たるんだシャツの胸元からは、女の白い胸の谷間が見える。
 人間離れした姿と力を持ったこの魔物娘は、普通の人間よりもだらしのない生活をしている。一応小説家だが、ほとんど頭のアレな引きこもりだ。
「頼んだ物は買って来てくれたか?」
 俺は、スーパーの袋を渡す。キマイラは、袋の中からカップの焼そばを見つけると嬉しそうに笑う。
「おお、ちゃんとわしの主食を買って来てくれたな」
 引きこもりキマイラの嬉しそうな声に、俺はため息をついた。

 俺は、豚肉のしょうが焼きとサラダを作り、キマイラに渡した。いくら何でも、カップ焼きそばと菓子だけでは栄養がかたよる。仕事から帰って来て、なぜ家でゴロゴロしている奴の飯を作らなければならないんだという思いはある。そうは言っても、作らなければキマイラの飯はかたよってしまう。
 キマイラはしょうが焼きは喜んで食べたが、サラダは嫌がった。俺は、無理やりキマイラに食わせる。カップの焼そばを買って来てやらないぞと言うと、キマイラはしぶしぶ食べた。
 キマイラは、ほとんど家から出無い。食料や日用品は俺に買わせる。衣料品は通販で買う。本は、ネット通販で買ったり電子書籍を買う。ゲームは、ダウンロード販売している物を買ったり、ブラウザゲームをやる。あとはテレビでやっているアニメを見ていれば、引きこもるためには不便な事は無い。
 見事なまでのダメ女だが、仕事はしている。前述したように、こいつは小説を書いて金を稼いでいるのだ。どのような小説を書いているのかと言えば、一言で言う事は出来ない。何故なら、こいつは四重人格だからだ。獅子、山羊、竜、蛇の人格が有る。それぞれの人格が作風の違う小説を書いているのだ。
 今出ているのは山羊の人格であり、バフォ君という名前だ。本名はアイカテリニと言うが、四つの人格はその名を嫌っている。それぞれが勝手に自分の付けた名を名乗っている。山羊の人格が自分に付けた名は、バフォ君という訳だ。何でも、山羊の体を持つ大悪魔バフォメットから取ったらしい。わざわざ自分の名前に自分で「君」を付ける辺り、良く分からないネーミングセンスだ。
 バフォ君の書く小説は、SF小説やファンタジー小説だ。ライトノベルと言われる、主に十代が読むジャンルの小説を書いている。アニメ風の挿絵が付き、やたらと擬音が多い文体の小説を書いている。登場人物の言動は非現実的なものが多く、小説の登場人物としてもエキセントリックだ。その一方で、政治学、経済学、歴史学、文化人類学、宗教学、情報学、工学、脳科学などの専門的な話しが出てくる。
 最近書いている物は、中世ヨーロッパ風の異世界を舞台としたファンタジー小説だ。ネコミミ娘、イヌミミ娘、魔法少女、ビキニアーマーの女戦士、メイドが出て来て、主人公は彼女達とハーレムを築く。そのかたわらに、オークや触手と戦うという内容だ。主人公は、女の子達とエロい事ばかりしているかと思うと、触手と政治思想について激しい論争を繰り広げたりする。
 俺の言っている事が分からないという
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