男は、体に纏わり付く匂いと感触に翻弄されていた。香水と女肉と汗の混じった匂い、柔らかく張りのある女体の感触に襲われているのだ。
寝台に横たわった男には、女が伸し掛かっていた。女は、男の体を抱きしめて愛撫し、愛おしげに頬を摺り寄せている。女の柔らかい髪が、男の顔や胸をくすぐっている。女の豊かな胸は、男の腹を愛撫していた。
男と女の普通の交わりに思えるが、その様を見れば異様な光景だと分かるだろう。女の背には黒い翼が生えており、女の頭には2本の角が生えている。右肩には山羊の頭が有り、左肩には竜の頭が有る。艶めかしく動く尻には尾が生え、その尾は蛇である。その異形の存在が、秀麗な女の顔や官能的な肢体と合わさっているのだ。
様々な魔物の体が交わり合った女は、組み敷いている男に体をすり付けて愛撫し、四本の舌で舐め回している。女は、人間の女肉と雌獣の匂いの混じったものを男の体に染み込ませていた。
部屋の中は贅沢な物だ。壁や天井、床は石造りで無骨だが、壁には絹と金糸でおられたタペストリーが掛けられ、床には毛皮が敷かれている。部屋を照らす燭台は金銀で出来ており、金で縁取られた大鏡は輝く燭台を映している。天蓋付きの寝台には、白絹と黒の毛皮が敷き詰められている。その絹と毛皮の上に、人間の男と魔物女が重なり合っているのだ。
魔物女は、男の顔に口を寄せて熱っぽく囁く。耳に熱い息を吹きかけながら、愛の言葉を囁く。囁きながら男の耳に舌を這わせる。魔物女の青い右目と赤い左目は、熱情で潤んでいる。
男は呻き声を上げた。女の執拗な愛撫を全身に受け続けているのだ。意志に反して声が出てしまう。
俺はここで何をしているのだ?何故こうなった?男は、魔物女に愛撫されながら事の顛末を思い返していた。
ゲオルゲは魔王領で仕事を探していた。傭兵として各国を渡っていたが、流れ者の生活に疲れて定住を望んだのだ。魔王領では人を差別せずに受け入れると聞いて、ゲオルゲは魔王領へ渡って来たのだ。
元々はゲオルゲと言う名ではなかったが、差別される事を恐れて名を変えた。ゲオルゲは流浪の民の出身であり、一族の者と共に各国を渡って来た。貧しく、差別され続ける生活を嫌い、名を変えて傭兵となったのだ。
だがゲオルゲは、傭兵として各国を渡り歩く生活にも疲れた。元々兵士として向いている訳でもなく、定住してまっとうな仕事に就く事を望んでいたのだ。流浪の民出身の傭兵であるゲオルゲには難しい事だ。
そんな時に、他の傭兵から魔王領の話を聞いた。そこではよそ者を差別する事も無く、定住して仕事を手に入れる事も出来るそうだ。その傭兵だけの話だったら信用しないが、以前から複数の傭兵から魔王領の話を聞いていた。
元々主神教など信用していなかったゲオルゲは、魔王領に行くことに決めた。ただ、いきなり行く事は危険だと考えて、魔物と人間が共存していると言う親魔物国へ行って様子を見た。そこで傭兵達の話がほぼ事実だと分かり、魔王領へやって来たのだ。
魔王領に入るとすぐに、城の前に立ち寄った。その城は地方を収める領主の城であり、城兵を募集していたのだ。ゲオルゲは、さっそくその応募に応じた。魔物の城だから人間の兵は追い払われるかもしれないと思ったが、採用担当者である首無し騎士デュラハンはきちんと面接してくれた。そしてゲオルゲは城兵として雇われる事となったのだ。
ゲオルゲは後に、良く調べずに軽率に行動したと後悔する事になる。
城での生活は、初めの内は悪くは無かった。仕事はきちんとしたものであり、上司や同僚は仕事を丁寧に教えてくれた。人間から見れば異形の姿の者達だったが、魔物娘は人間よりも立派な者達だ。ゲオルゲの傭兵としての経験も仕事に活かす事が出来た。二月過ぎる頃には、これでまっとうな生活が出来るとゲオルゲは喜んだほどだ。
だが、次第に雲行きが怪しくなってきた。城主であるキマイラの態度がおかしくなってきたのだ。城主たる者は、公的な行事を除けば一兵卒の前に顔を出す事はほとんどない。それなのに、気が付くとゲオルゲの視界にキマイラ城主の姿があった。キマイラは、いくつもの魔物の合わさった目立つ姿で何も言わずにゲオルゲをじっと見ている。右目が青で左目が赤と言う存在感が有る目で、執拗に見つめている。その視線はある時は突き刺す様であり、ある時は粘つく様に絡みついて来た。
気味が悪かったが、見ている以外は特に何もしてこなかった。ゲオルゲの仕事や生活に特に干渉してくることも無い。同僚である魔物娘達も、この件で特に何も反応はしない。ゲオルゲは、気にしていないふりをしながら仕事を続けた。
ゲオルゲが城へ来てから三月目に決定的な事が起こる。ゲオルゲは、キマイラに呼び出されたのだ。城主の呼び出しを拒否する事は出来ない。キマイラ
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