俺は、夜の街を彷徨っている。金をふんだくる獲物を見つけるためだ。
こう言うと、俺の事を遊ぶ金欲しさにカツアゲするDQNだと思う人もいるだろう。そんな気楽な立場だと良かったのだが、残念ながら食い物を買う金と寝る場所を借りる金を手に入れるためだ。
まあ、俺の人生は終わってしまったようなものだ。せいぜい暴れてやろうと思っている。「俺たちに明日はない」と言う昔の映画があるが、今の俺の立場はそんなものだ。
事の起こりは、父が母の顔をフライパンでぶん殴った事だ。その日、父と母はいつも通り罵り合っていた。仕事から帰ってきた母が、酒を飲んでいる父を罵った事でケンカが始まった。ろくに稼げないくせにビールを飲むなと父を罵ったのだ。そのとき父が飲んでいたのは「第三のビール」だったが、それはともかく父は母に怒鳴り返してケンカになった。その挙句、父は母の顔をフライパンで殴ったのだ。
母の顔は元からひしゃげているが、だからと言ってフライパンで殴る事はやり過ぎだろう。立派なドメスティック・バイオレンスだ。母は、警察を呼ぶと喚き散らしていた。
もっとも父は、警察が来る前に俺達が住んでいる市営住宅から出て行った。それきり、父は行方不明だ。ここから母と子の生活が始まるかと思えば、母は俺を捨てて出て行ってしまった。俺は、十七歳にして親の保護を失った訳だ。
その後、俺は親戚に相談しようとしたが、親戚は話をろくに聞かずに電話を切った。俺の存在は、親戚にとっては迷惑だという訳だろう。次に、青少年問題に取り組んでいるNPOに相談した。こちらは真面目に応対してくれて、俺の親戚と話し合ったり施設への入所手続きを試みてくれた。
このままいけば穏当に済んだかもしれないが、俺は問題を起こした。強盗と傷害をやらかしたのだ。
俺が犯罪者として歩き始めた第一歩は、本屋での出来事からだ。俺は馬鹿の癖に本を読む事が好きであり、その日も本屋に寄っていた。そこで態度の悪い初老の夫婦と出会ったのだ。本屋の中だと言うのに大声で話し、アルバイトの店員に横柄な態度を取っていた。身なりは良さそうだが尊大なジジババ夫婦に、最低賃金ギリギリしかもらっていない若いアルバイト店員は謝り続けていた。
俺は、素知らぬ顔でその夫婦の側によって様子を窺った。そのジジババは、保守を自称する「オピニオン誌」を手に取ってレジへ向った。これは素晴らしい光景である。愛国者の老夫婦は、「甘やかされてだらしない」若者を懲らしめて下さったわけだ。これは若者の一人として、一つ挨拶をしなくてはならない。
俺は、老夫婦を追って店の外へ出た。時間は夜であり、外はわずかな照明だけで暗い。俺は、暗闇に紛れて夫婦の跡をつけた。老夫婦は、駐車場に止まっている良さそうな車に乗り込もうとしていた。愛国者にふさわしい豊かな生活をしているらしい。
俺は、普段持ち歩いている特殊警棒をカバンから取り出し、夫君を後ろから殴った。夫君は喚き声を上げると、俺につかみかかって来る。さすが愛国者、勇敢である。俺は、敬意を表して一切手加減する事無く御老人の頭と顔を特殊警棒で繰り返し殴った。愛国者も年には勝てないのだろう、血の泡を吹いて地面に倒れた。
細君の方を窺うと、喚き散らしながら逃げていくところだ。俺の暴行を見ていた通りすがりの者もいたが、彼もただ見ているだけだ。情けない事に、この老愛国者を助ける者はいないらしい。
俺は、倒れている御老人のポケットを探った所、革製の立派な財布が出て来た。俺はありがたく頂戴した。愛国者たる者が貧しい若者に恵んでやっても、八百万の神は罰を当てないだろう。その場を去って、離れた物陰で財布を見ると五万円もあった。俺は感謝しながら金を抜き取り、財布をドブ川に放り込んだ。
そのまま、俺は夜行列車に乗り込んだ。犯罪者としてあての無い旅へと出たわけだ。さすがに俺の面倒を見てくれたNPOには悪いと思い、一時下車したところでお礼と謝罪の手紙を出した。それ以外には俺が気にする人もいなかったので、俺は悠々と旅を続ける事にした。
さて、そろそろ俺が出会ったキチガイ魔物女の話をしよう。あの魔物娘のせいで、ただでさえおかしな方向へ向っていた俺の人生は、修正不可能なほど暴走、迷走したのだ。
逃亡後の俺は、人を後ろから殴って金を奪いながら旅を続けた。ナイフも持っていたが、幸い使わずに済んだ。「幸い」などと言うと俺の事を偽善者呼ばわりする奴もいるかもしれないが、俺だって人殺しは避けたい。殴り倒して金を奪う事が出来れば、俺には十分なのだ。
奴と会った日は、いつものように獲物を探していた。時間は夜であり、襲撃には適した時間だ。俺は、歩きながら話している二人の中年女に目を付けて、後を付け始めた。
その二人は、会話から察するにバブル女の成
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4 5 6..
9]
[7]
TOP[0]
投票 [*]
感想