「日本は腐りきっておる!大東亜戦争に負けて、男は愚連隊か腑抜けになり、女はパンパンになり果てた。我らは奴らを叩き直し、神国日本を復活させねばならん!」
水華様は拳を突き上げて演説をしている。頭には「國体護持」と書いた日の丸の鉢巻きを締め、手には長刀を持っている。狂人のような有様だが、これでもこの地方の気象を司る水神たる龍だ。頭からは茶色の角が生ており、手は緑色の鱗に覆われ下半身は蛇の様な体である。それらの人間離れした体が、凛々しさを感じさせる美貌と艶めかしい人間女性の体と同居しているのだ。
「もうすぐ『くりすます』なる腐り果てた行事が始まる。伴天連の『神の子』とやらの祭りにかこつけ、堕落した男女が不浄の交わりを行う日だ。我ら日の本の神とそれに仕える者は、南蛮人どもにたぶらかされた愚物どもに天誅を下すのだ!」
水華様の檄に応えて、白姫と私は拳を突き上げる。白姫は水神の巫女たる白蛇であり、私は、まあ信者のような者だ。水華様に従う事が義務と言っていいだろう。もっとも、私は面白ければそれで良い。恋人がいない貧乏人としては、クリスマスにひと騒ぎ起こしたい。
水華様と狂乱を起こして、せいぜい楽しむ事としよう。
水華様は、クリスマスイブと当日に大吹雪を起こすつもりだ。水華様は気候を操る力を持っており、吹雪を起こす事も出来る。クリスマスイブに街に出るカップルを、雪と氷で打ち倒そうという訳だ。
これは、水華様にしてはまっとうなやり方だろう。気候を操る事は、龍としての管轄内の行為だ。まあ、自治体を管理する官民の人間にとってはたまったものではないだろうが。それでも、戦車に乗って出撃するよりは龍らしい行為だ。
水華様は、この地方に出来たサバトの支部を潰そうとした時に九七式中戦車に乗って出撃しようとした。神社の後ろに防空壕が有り、そこに隠してあったそうだ。何故神社の後ろに防空壕が有るのか、何故敗戦から七十年経とうと言うのに九七式戦車が有るのか、いまだに動くのは何故か、水華様が何故操縦できるのか、そもそも龍の体で中戦車に乗る事が出来るのかと突っ込み所は多い。だが実際に、水華様は九七式中戦車に乗って出撃しようとしたのだ。サバトは「鬼畜米英の邪教」だから潰さなければいけないそうだ。サバトを主宰するバフォメットは異世界の悪魔だから、「鬼畜米英」ではないと思うのだが。それはともかく、この暴挙は私と白姫が羽交い絞めにして止めさせた。
サバトの方も、水華様を嫌っている。どうやら水華様の豊かな胸が気に食わないらしい。一度バフォメットがこの地方に来たが、子供のような体に小さな胸をしていた。サバトの構成員たる魔女やその使い魔たるファミリアも、子供の体に小さな胸をしていた。大人の体にふくよかな胸をしている水華様は、彼女達のコンプレックスを刺激するらしい。嘘か本当かは知らないが、「打倒、巨乳!」がサバトのスローガンであるらしい。そういう訳で、水神神社とサバトは冷戦状態である。
水華様の現在の関心は、サバトよりもクリスマスだ。クリスマスにセックスを励む「愚連隊とパンパン」を叩き直さなければならないそうだ。「日本男児と大和撫子」を復活させて、「アメリカ兵によって麻薬とセックスで汚された」日本を建て直さなければいけないと叫んでいる。私と白姫は、それに協力するつもりだ。
こんなキ印右翼の戯言に付き合うのは、前述したように楽しければいいからだ。恋人のいない上に、友達もいないし家族と仲の悪い私は、クリスマスを楽しむ人々を引っ掻き回す騒動は望む所だ。刑務所に入れられるかもしれないが、それも望む所だ。私は学歴、職歴、能力が無く、ろくな仕事に就けなかった。そして当然の事ながら金も無く、一生金には縁は無いだろう。そんな有様なので前科者になっても構わない。
私の様な人間は、「誰でもいいから人を殺したかった」となるかもしれないが、これでも私は踏み越えてはいけない線は分かっているつもりだ。私がやる事は、あくまで騒動を起こす事だ。騒動を起こした後は刑務所でいじめられるかもしれないが、それはシャバでも同じ事だ。刑務所でカマを掘られる人もいるらしいが、私のカマを掘る物好きはいないだろう。
そういう訳で、私は魔物娘と共に騒動を引き起こし、楽しくやろうという訳だ。
私は、白姫と共に神社で準備を行っていた。先月まで私は、アウトソーシングを業務とする会社に勤めていたが首になった。その会社は、契約社員を大量採用して契約解除と言う手続きを経て大量解雇を繰り返す会社だ。私は二年ほど勤めていたが、契約社員の中では長い方だろう。失業して時間が出来た為に、こうして平日の昼間から神社の手伝いをしているわけだ。
準備の内容は、クリスマス粉砕の準備の他に年末年始の行事の準備だ。この時期の神社は忙しく、猫
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