少年皇帝と人虎

 朱塗りの柱と金の装飾が目立つ建物の中を、一人の少年が走っていた。少年は、金糸を縫い取っている青い絹服を着ている。一目で豪奢な物だと分かる服だが、少年は気に止める事も無く裾を蹴立てて走っている。少年にとっては、華美な服よりも大事なものがあるのだ。
 凝った作りの金の燭台と香炉の間をすり抜けて、少年は走り続ける。少年の服同様に建物は豪奢な物であり、本来ならば子供が走っていい場所ではない。だが、少年を叱責する者はいない。少年の守り役を務めた宦官だけが、時折たしなめるくらいだ。少年とすれ違った者は、皆が恭しく少年に礼をする。少年こそが、この後宮の主であるからだ。
 少年は、建物の中のやや広い空間に飛び込む。そこには彼が目指す者がいた。その者は、他の後宮の女の様に裾の長い帯で締める服を着ていない。胸と下腹部を、金で装飾された緑色に塗られた鉄の服を付け、虎の頭の形に作られた金の肩当てを付けている。体の他の部分はむき出しとなっており、筋肉質な体がむき出しとなっている。妖艶な雰囲気が漂う後宮でも、ここまで露出度の高い格好をしている者は少ない。
 ただ、女の特徴は他の部分に求められるだろう。茶色の髪から除く耳は、黄色と白色の獣毛に覆われていた。むき出しの手足は、黄色と黒の縞模様の獣毛が柔らかく波打っている。女の尻からは尻尾が生えており、それも黄色と黒色の獣毛で縞模様を描いている。それらの虎の特徴が、若い女の美貌と体と合わさっているのだ。
 女は、格闘の構えをして空に拳や足を突き出していたが、少年の姿を目にすると構えを解いて一礼した。その動きには無駄が無く、体からは生命力が溢れている。
 少年は、人虎と言う魔物である女の大柄な体に歓声を上げながら飛びついた。女の腹筋の割れた腹に顔を摺り寄せて頬ずりをする。格闘の訓練の後であり女の腹には汗が浮いているが、少年は気にした様子は無い。少年は、さらに獣毛に覆われた手に頬ずりをし、足にも顔を摺り寄せる。少年の顔は、滑らかな毛の感触を味わい喜びを露わにしていた。幼く見える少年の顔は、ますます子供じみて見えてくる。
 虎の特徴を持った魔物娘は、彫りの深い美貌に困ったような表情を浮かべていた。

 西方の者に霧の大陸と呼ばれる所が有る。広大な土地と膨大な数の人、古い歴史のある所だ。その大陸は、一つの帝国によって支配されている。
 現在の帝国は平和だ。帝国にとって宿敵ともいえる北方の騎馬民族は、戦争を仕掛けてこない。帝国と取引をした方が利になると判断しており、また帝国に移住した元騎馬民族もいる。その他の周辺国は、帝国とは比べ物にならない弱小国だ。臣下の礼を取らせた後、交易をしている。
 国内の治安も良好だ。法と官僚制が機能しており、警吏たちは適度に仕事熱心である。その成果として凶悪犯罪は減少しつつある。国内が豊かになりつつある事も、治安を良好にしていた。国と民は治水と開墾に熱心であり、食糧生産は増えつつある。国の市場への介入も成功し、物価は安定している。このような状況である為、よほどの馬鹿でない限りわざわざ盗賊になろうとはしない。
 だからこそ、少々お馬鹿な少年が皇帝でも国内は治まっているのだ。皇帝が優れた力量を持たなくてはならない場合は、制度が整っていない、あるいは機能していない場合である。法と官僚制が整っていれば、皇帝が遊び好きな少年でも構わないのだ。中書令、侍中、尚書令ら行政を司る者達が、少年皇帝をきちんと補佐しており問題は無い。
 十三歳の少年である皇帝は、現在は文武の修行に励んでいた。君主としての修行途中である皇帝を、優れた師達が鍛えている。
 そうは言っても、皇帝は遊びたい盛りの少年だ。しばしば勉学をさぼって遊び歩いている。おまけに皇帝は性に目覚め始め、後宮が皇帝の遊び場となりつつある。その後宮に、皇帝のお気に入りが一人いた。
 彼女は静麗と言い、虎と人の体を持つ魔物娘である人虎だ。皇帝は、彼女のなめらかな獣毛を、大型の猫のような耳と尻尾を、弾力のある肉球を、たくましい筋肉を愛している。巨大化した猫の様な彼女の体に身をすり寄せるのが皇帝の日課だ。

「モフモフだ、プニプニだ」
 少年皇帝は、静麗の手足の黄色と黒色の獣毛を飽きもせずに撫で回し、掌の黒い肉球を押していた。皇帝は、静麗を寝所に連れ込み寝台に座らせて、体を玩具にして遊んでいる。静麗は、溜息をつきながらされるままになっている。
 皇帝は静麗の右腕の獣毛に顔を埋めると、鼻で深く息を吸った。
「いい匂いだよ、汗と毛の臭いが混ざっているよ」
 静麗は顔を赤らめ、ぼそぼそと声を出す。
「武術の訓練の後ですから、私の体は汚れています。体を洗い、着替えてまいりましょう」
「洗わなくていいよ、いい匂いがするからね」
 静麗の恥じらいを気に留めずに、皇帝は静麗
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