鉄と血の騎士

 腐った果実は、捨てるしか無いのか?だが俺は、捨てる事は出来ない。だったら、腐った部分を切り捨てるしかない。
 教団は腐敗してしまった。かつての理想は、「現実」を振りかざす輩によって潰されていった。既得権益を握った連中は、神の威光を利用しながら自分の利益を追求している。教皇だの枢機卿だの騎士団長だのと言った肩書で、豚の様に肥え太っている。奴らは老醜をさらす豚だ。
 教団がこの有様では、諸国が腐る事も道理だ。王とその犬どもは、露骨に自己の権益を追及している。聖俗共に糞まみれの豚に成り果てている。弱者は、救いを断念してすすり泣くばかりだ。
 教団と主神を崇める国が、魔物どもと異教徒という魔物同然の者に押される事は当たり前だ。汚物まみれの豚や媚びへつらう駄犬どもに、力のあふれた魔物や異教徒を倒せるわけがない。我ら主神教徒は、奴らに踏みにじられるだろう。
 俺は、坐して踏みにじられる事を待つつもりは無い。腐敗した豚どもを粛清し、教団を建て直すつもりだ。幸い、俺には同志達がいる。力と清新さに満ちた青年騎士達だ。彼らと共に、教団を、そして世界を浄化するのだ。
 この世界には、血の粛清が必要なのだ!

 俺一人が教団の現状を憎んでいるのならば、全く話にはならない。だが、憎んでいるのは俺だけではない。不満は蓄積され、力となりつつある。
 俺がその事に気が付いたのは、ある檄文を見た事からだ。ある集会場に寄った時、部屋の隅に檄文が置かれていた。俺は興味を持ち、それを読んでみた。
 内容は、教団の腐敗を弾劾する物だ。名指しを避けてはいるものの、教皇を初めとする教団上層部を批判し、教団の刷新を訴える物だ。俺が以前に関わった事が書いて有るから関心を持ったが、所詮は軽くあしらわれる檄文と思いそのまま捨て置いた。
 だが、その檄文は思った以上に影響を持っていたらしい。教団兵の行きつけの酒場で、その檄文の事が話題になっていた。しかも、好意的な態度で話していた。
 俺は、少なからず驚いた。俺の居る場所は、教団の総本部のある都市だ。教皇のおひざ元で、教皇批判の檄文が力を持っているのだ。
 その場にいた者達は、酒の勢いで話していたかもしれない。だが、その後複数の場所で、その檄文の事や教団批判の話を聞いた。別の教団批判の檄文も目にした。俺の思っている以上に、教団の現状への不満は高まっているらしい。
 教団の現状に不満をぶつける集団もいくつかあるようだ。兵舎や役所、食堂、酒場で集団の話が持ち上がった。俺は彼らに興味を持ったが、参加する事はためらった。この調子では、いずれ集団は摘発されるだろう。その挙句、彼らは異端審問に掛けられるだろう。俺は自滅するつもりは無かった。
 それでも俺は、教団の現状に我慢が出来なかった。教団の浄化を行いたいのだ。俺は、それら不満分子の集会について調べ始めた。俺は、以前に諜報関係の仕事に携わった事があるから、調べ方は少しわかっている。俺は、その中で一番慎重な集団に接触する事に成功した。

 その集団は、教団の青年騎士達の集まりだ。教団本部を守る騎士団に所属する者達だ。その様な所属先である事から、彼らの行動は慎重だったのだ。
 彼らは、初めは俺を警戒した。俺は、別の騎士団所属である上に一応は幹部だ。しかも青年という訳ではない。ただ、青年騎士の中に以前に俺が世話をした者がおり、彼の紹介のおかげで集会に参加する事が出来た。俺は教団による不平分子摘発の動きをいくらか掴んでおり、その事を彼らに知らせて摘発を逃れさせた。これでいくらか彼らの信用を得たのだ。
 俺は、初めの内は彼らの話を聞いている事に専念した。俺は新参者であり、控えめな態度を取る必要があると考えたからだ。だが俺は、次第に我慢出来なくなってきた。彼らは、方向性を持っていない。ただ、積もった不満を紛らわすために文句を言っているだけだ。行動に移ろうとはしない。
 ある時、俺は我慢の限界に達して彼らを責め立てた。
「君達は、愚痴を言うために集まっているのか?偉い人達は、俺達の事を分かってくれないと泣き言を言いたいだけなのか?教団を改善するつもりは無いのか?君達は何をしたいのだ?」
 この批判に青年達は激昂し、自分達は教団を変えるために集まっているのだ、新参者が偉そうな事を言うなと叫んだ。
「だったら、目的を具体的に示せ!行動に移るための話をしろ!」
 彼らは俺に反論しようとしたが、上手く話せなかった。彼らは力にあふれていたが、その力をどういう方向に向ければいいのかよく分かっていないようだ。教団を改善したいという意思はあるが、どう行動すればいいのか分からないようだ。
「君らの腰に付いている剣は、なまくらなのか?兵士が、騎士が行動を起こすとはどういう事なのか分からないのか?」
 俺は、そこで話を止めて
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