狂った世界で淫乱メストカゲと戯れよう

 ある日、僕は鏡の中の世界へ入り込んだ。猫の耳を生やした女の子とエプロンドレスを着た女の子が鏡の中に入り込み、それを追いかけたら僕も鏡の中へ入り込んだのだ。
 別に僕は、寝ぼけているわけではない。夢から覚めたら猫と戯れていた、なんて事は無い。仮に夢を見ているのだとしたら、今も夢を見ているのだ。
 僕は、その日は自室にいた。休みの日に自室に閉じこもって、陰鬱な考えに浸っていた。そこへいきなり、前述した二人の少女が飛び込んで来たのだ。猫の耳を生やした少女を、エプロンドレスの女の子が追いかけていた。そして二人は鏡に向かって突っ込んでいき、ぶつかるかと思うと鏡の中へ吸い込まれたのだ。
 鏡の所へ行って触れてみると、僕は鏡の中へ吸い込まれてしまった。鏡の中は薄暗い屋敷の中であり、僕には覚えのない所だ。僕は混乱した状態でさ迷った後、やっとのことで屋敷から出る事が出来た。そして出た所は、七色に変化している空の下にある紫色の草の生えた庭だ。
 僕は馬鹿みたいに立ち尽くしたが、それは当然の事ではないだろうか?

 庭をさ迷い歩くと、オレンジ色のテーブルとイスがある場所に出た。テーブルの上にはティーセットが置かれており、お茶会が出来る状態となっている。テーブルの周りは花園となっており、青いバラや緑色のユリ、赤いスミレが咲き誇っていた。
 椅子には、緑色の燕尾服を着て同色のシルクハットをかぶった若い女性がいた。彼女は静かにお茶を飲んでいたが、僕を見つけると微笑みながら話しかけて来た。
「やあ、僕はウィルマと言う者だ。よそから来た人には説明しないと分からないだろうが、僕はマッドハッターと言う種族の者さ。良かったらお茶を飲まないかね?」
 僕は、彼女の誘いに乗った。状況を把握するためにも、誰かと話す必要があるからだ。僕が席に着こうとしたら、突然後ろから声がした。
「無粋そうな男だけど、お茶会に誘うのはよしたら」
 僕は、振り返って話し手を確認しようとしたが、誰もいない。ただ花園があるだけだ。
「ほら、お馬鹿さん丸出しの顔をしているわ」
 僕は、危うく飛び上がるところだった。バラの花が喋っているのだ。
「そんな事を言うものではないわ、失礼よ」
 今度はユリが喋り出した。
「驚いているようだね。外の世界から来た人は、この世界の花には慣れない者が多い」
 ウィルマと名乗ったシルクハットの女性は、面白がるように言った。
 驚くなと言う方が無理な話だ。バラの花弁が青くユリの花弁が緑なのも驚くが、花が喋る事は異常事態だ。僕は、震える手でお茶の入ったカップを持つ。お茶はやけに甘ったるく、そして酒でも入っているかの様に酔う物だった。
「君は本を持っているね。良かったら見せてくれないか?」
 ウィルマの言葉に、僕は本を持っている事に気が付く。僕は、屋敷の中をさ迷っているうちに本を持ち出して来たらしい。ウィルマに指摘されるまで気が付かなかった。僕は、言われるままにウィルマに本を差し出した。
「これはジャバウォックを詠んだ詩だね」
 首をかしげる僕に、ウィルマは説明する。
「ジャバウォックと言うのは、この不思議の国に住むドラゴンさ。淫乱メストカゲと呼ぶ人もいるけどね。男を探して空を飛び回っているのさ」
 ウィルマの説明を聞いている内に、僕は強い欲望を感じ始める。体が熱くなり、下半身に力が入る。目の前にいる女であるウィルマに襲い掛かりたくなる。もしかして、あのお茶には何か入っていたのか?
「発情したサルみたいね」
 スミレが僕を嘲り笑う。
 ウィルマは立ち上がり、優雅に一礼する。
「君の相手をしてあげたいけれど、僕にはパートナーがいるのでね。これで失礼するよ。心配せずとも君のパートナーはすぐに見つかるさ」
 ウィルマは、素早く花園の中に身を躍らせて消える。
 僕は、ウィルマを追いかけて駆け出した。

 花園を抜けるとオレンジ色の葉の茂る森があった。僕は、その森の中を発情しながらさ迷い歩いた。発情するのは恥ずかしいと分かっているが、それでもこの時は自分を抑えられなかったのだ。
「おや、見事に出来上がっているねえ」
 艶やかな女性の声に、僕は激しい身振りと共に女性の姿を探す。女性は、木の枝の上でニヤニヤしながら僕を見下ろしていた。女性の頭には猫のような耳があり、お尻からは猫のようなしっぽが生えている。僕が誰何すると、口の端を釣り上げながら答える。
「あたしはチェシャ猫さ。この国の、いやこの世界と言ったほうがいいかな?案内者さ」
 僕は、このチェシャ猫と名乗る猫耳の生えた女性に襲い掛かりたくなっていた。僕のその時の状態は、発情したサルの様なものだ。
「でも、あんたを案内するのは私の役目じゃないねえ。まあ、森を抜けると案内人が見つかるさ」
 チェシャ猫は、いやらしい笑いを浮かべると森
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