目の前で男が魔物に襲われていた。ポロシャツを着た太った男が、白馬の下半身を持った魔物に押し倒されている。白い角を生やしたその魔物は、男の脂ぎった顔を舐め回している。
辺り一面阿鼻叫喚の有様だ。白い魔物達が、イベント会場にいる男たちに襲い掛かっている。秀麗な容貌の魔物が、太った男の汗で濡れた顔に頬ずりをしている。白くしなやかな体を持った魔物が、胴長短足の男の下半身にすがり付いている。辺りには、男の悲鳴と女の獣じみた哄笑で溢れている。
「童貞だ!童貞どもが溢れているぜぇ!」
「そっちへ行ったぞ!逃がすな!」
白い雌獣達が叫んでいる。男達は泣きながら逃げ惑うばかりだ。肉食獣に狩られる草食動物の姿だ。
俺達は嵌められたのだ。最初からこのイベントはおかしかった。気づくのが遅すぎたんだ。だが、今は後悔している暇は無い。
俺は、魔物と人間を掻い潜りながら逃げ続ける。俺は、奴らに捕まる訳にはいかない。俺は二次元に操を立てたのだ。三次元の女など要らない!例え相手が魔物娘でもだ。
俺は逃げながらも、今までの事が次々と思い浮かぶのを止められなかった。
俺は、オタク系のイベントに参加していた。いつも行われるイベントは、コミケとは違って小規模な物だ。俺の居る所は地方都市であり、そんな所で行われるイベントなどたかが知れている。
それがどういう訳か、今回に限りずいぶん規模が大きい。今まで出て来た事が無い企業や同人サークルが出ている。いつもなら採算が取れないから出るはずが無い連中だ。それが、なぜか出ている。
俺は、首をかしげながら会場を回る。会場を回ると、おかしな事が他にも目に付いた。美女が多すぎるのだ。コスプレイヤー、企業やサークルのスタッフ、イベント運営スタッフなどが美女ぞろいであり、人数も多い。こんな田舎のイベントでは考えられない。
しかもただの美女ではない。髪はいずれも純白であり、顔立ちを見ると日本人ではない。外国企業が参入して来たのかと思ったが、なぜこんな田舎のイベントに参入するのか分からない。
会場は異様な雰囲気に包まれている。集まったオタク男達は、ひそひそと囁きかわしている。
ふと会場の隅の方を見ると、場違いな男女の群れが居る。男達はいずれも中年か初老であり、ボタンダウンシャツにスラックスという格好だ。一人いる女は中年であり、ビジネス向けのシャツにスカート姿だ。俺は、始めは参加企業の社員かと思った。
よく見ると、知っている顔がある。初老の男の一人はこの県の知事であり、他の初老の男の中にはこの市の市長がいる。なぜここへ居るんだと考えて、一つの事に思い当たる。今回のイベントは、県と市が出資しているという噂があった。イベントの概要が発表された時、出資者の名前に県と市が載っていなかった為、単なる噂として片付けられた。だが、知事と市長がこうして来ているからには、県と市がイベントに関わっているのは間違いないだろう。
しかし、なぜ県と市がオタクイベントに関わるのだ?オタクを使って町おこしでもするつもりか?この時の俺にはわからなかった。
俺は、企業やサークルのブースを見て回る。俺は、ある企業のブースで魔物娘について解説してある図鑑を見つける。俺は、魔物娘には興味がある。ただし、二次元限定だが。
五年前に異世界とのゲートが開き、魔物娘がこの世界に来た。オタクの中には魔物娘を歓迎する奴もいるが、俺にとっては所詮三次元女だ。関わり合いたくは無い。
三次元女が糞だという事は、学校や職場でうんざりするほど学んだ。三次元女など、「萌えないゴミ」だ。未来永劫、俺にとっては敵か他人だ。
俺は、そのブースの女性スタッフに断って図鑑の中身を見る。女性スタッフは、会場に溢れている白髪の外国人の一人だ。俺は、図鑑が気に入り買う事にする。
「ケンタウロス種の魔物娘がお好きですか?」
俺に商品を手渡しながら、その女は話し掛けてくる。少しアクセントがおかしいが、きれいな話し方だ。俺が、ケンタウロス種の所を見ていたからそう言ったのだろう。ええ、そうですと短く答える。
俺は、魔物娘の中ではケンタウロス種が一番好きだ。ケンタウロス、ナイトメア、バイコーン、そしてユニコーン。俺は、中でもユニコーンが一番好きだ。美しい白馬の下半身を持ち、それにあった白色の人間の上半身を持つ。頭には純潔を象徴する白い角を持つ。俺の理想の姿だ。しつこいようだが二次元限定だ。
「それはよかったです。あなたは現実でもユニコーンに会えますよ」
俺は、危うく顔をしかめる所だった。現実では会いたくない。
その時、会場中に鈴の音が鳴り響いた。会場に居るオタク達が、怪訝そうな顔で辺りを見回す。不意に会場のそこかしこで白い光が放たれる。光は白い女達から放たれている。見る見るうちに、女達の姿が
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